これはあくまで僕の実感値でしかないが、20代のころは比較的横一列でキャリアを歩んでいても、30代になると自分の独自の世界観をつくって活躍する人が、一気に世の中に出てくる。
そういう人とサシで飲んだりすると、その多くが20代のころに一度ひどい挫折を体験したり、思い描いていたキャリアパスから転げ落ちたりした経験を語ってくれる。そしてたいてい誰もが、そのときのことに深く感謝している。
トランジションのときというのは、一時的に周囲から認められなくなるタイミングでもある。そうした厳しい環境になって初めて、周囲に影響されない自分のビジョンや価値尺度を見つめ直せるのだろう。眩しすぎる世界から暗い世界にやってくると、自分が放っている光にようやく気づけるようなものだ。
もちろん、読者のみなさんにそんな挫折を強いるつもりはないが、トランジション(移行)を成功裡に進めるには、ある種の「まわり道」が有効になるのは事実だろう。
閉塞感から抜け出すための
「正しいまわり道」の教科書
発売から10日程度で3万部を超える売れ行きを見せている僕の最新刊『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』は、そのような「まわり道」について解説した本である。
同書の前半で僕は、4つの思考類型について解説している。
[1]カイゼン思考 PDCAによる「効率化」を目指す――「カイゼンの農地」
[2]戦略思考 論理に基づき「勝利」を追い求める――「戦略の荒野」
[3]デザイン思考 共創を通じて「創造的な問題解決」を行う――「デザインの平原」
[4]ビジョン思考 「妄想」を駆動力にして創造する――「人生芸術の山脈」
「仕事はうまくいっているけれど、なんとなくモヤモヤする。でも、どこに不満があるのかもよくわからない」という不満を持つ人は、[1]〜[3]の思考にとらわれている。これらは他人のつくった基準をベースにした「他人モード」の思考である。これだけに偏ってしまうと、人は自分が何に関心があるのかとか、何が好きなのかといったことを忘れてしまう。
それに対して、「自分モード」で思考する方法が[4]のビジョン思考である。しかし、実際のビジネスの場面で「妄想」を駆動力にして何かを生み出すなどということが本当にできるのだろうか?