そこで注目してほしいのが、4つの思考を配置した大地の真ん中に開いている大きな「穴」だ。
ご覧のとおり、穴から落ちた先には、新しい地下世界が広がっている。これを僕は「ビジョンのアトリエ」と呼んでいる。驚くべきなのが、まず目に飛び込んでくる山の裾野だ。
この山は地上の世界にまで突き出している。そう、これは「人生芸術の山脈」の深層部なのだ。地上の世界からはどうやっても立ち入れなさそうに見えたあの「山脈」だが、この「ビジョンのアトリエ」からは地続きになっており、人々が次々と険しい山道を上がっていくのが見える。
学生やいわゆるアーティストを除くと、この「アトリエ」に定住している人は、ほとんどいない。
多くは地上の世界からやってきた「旅行者」や「多拠点居住者」であり、発想を広げたり磨いたりする目的でここに降りてきたのち、しばらくしたらスッキリとした表情で自分のフィールドに帰っていく。
「カイゼンの農地」「戦略の荒野」「デザインの平原」に続くエレベーターに乗り込んで上の世界に戻る人もいれば、そのまま山を登って「人生芸術の山脈」から地上に出ようとする人もいる。
以上のように、「閉塞感」を打ち破る「トランジション」を実現するためには、自分だけの「妄想」を掘り下げるという「まわり道」が必要になるのである。
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。