従来のバス転換とは違う
BRTサービスの質の高さ

 原状復旧には2路線合計430億円、安全対策や復興まちづくり計画への対応を含めると1100億もの費用が必要となる。また、土地のかさ上げや市街地の内陸移転が完了するまで鉄道の復旧に着手できないので、長期間にわたって地域の基幹交通が機能停止してしまう。

 そこでJR東日本は、安価かつ早期に交通機能を回復可能で、まちづくりの進展にあわせて柔軟にルートを変更できる、高速バス輸送システム(BRT)としての仮復旧を提案。気仙沼線は2012年8月、大船渡線は2013年3月に運転を再開した。

 地元自治体側は、BRTはあくまでも仮復旧であり、将来的な鉄道復旧が前提であるとしていたが、JR東日本は2015年7月に両線の鉄路復旧を断念する方針を正式に通知した。

 最終的に地元自治体がBRTを受け入れたのは、その利便性の高さだった。運転本数は鉄道時代の1.5~3倍に増便、ダイヤも30分~1時間間隔と分かりやすくなり、商業施設や公共施設に直接アクセスする新駅の設置など、復興途上の地域に寄り添った交通機関として、BRTの実績が積み上げられた。

 速達性や輸送力に課題は残っているものの、最終的には気仙沼線の9割、大船渡線の5割の線路がバス専用道として整備される予定で、所要時間も鉄道時代(普通列車)に近い水準まで改善される見通しだという。

 これまで日本の鉄道において、鉄道が廃止されてバスに転換されると、二度と輸送サービスは戻らないのが「常識」であった。代行バスは次第に本数を減らしていき、最終的にはバスさえも廃止されて、地域の足が失われてしまう。地元自治体や住民が当初、BRT転換に危機感を抱いたのはやむを得ない話だろう。

 だがBRTは鉄道時代の運賃や、地図や時刻表における「路線」としての位置づけを維持した上で、これまで鉄道が担ってきた輸送を、より便利かつ安価に提供する可能性を示して見せた。これにより、鉄道かバスかという二項対立を乗り越えて、鉄道復旧の新たな選択肢としてBRTが認識されるに至ったのである。

 もちろんBRTが全ての問題を解決することは不可能だ。震災前に鉄道が最短約2時間で結んでいた仙台~気仙沼間の速達輸送は、BRT化によって大きく後退したが、交通機関の全ての役割を鉄道が担わなければならないというわけではない。これは多額の費用を投入して大規模な事業を進めながら、必ずしも十分な効果を発揮できていない復興事業の反省として考えた時に、大きな示唆に富んでいると言えるだろう。

 三陸地域が直面する状況は、個別の自然災害か、あるいは長期的な衰退か、時間軸は違ったとしても、日本全国のローカル線がいずれ直面する問題である。東北の各路線それぞれがたどってきた8年間の道のりは、私たちのインフラの行方を考える上で、貴重な経験であり、出発点になるはずだ。