名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を、医療ジャーナリストの木原洋美が取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを紹介する。今回は第5回。日本における不整脈治療のパイオニアである済生会熊本病院循環器内科(心臓血管センター)・不整脈先端治療部門最高技術顧問の奥村謙医師を紹介する。
最新不整脈治療の発信地は
弘前から熊本に変わった
「おもしろきこともなき世をおもしろく」――これは、奥村謙先生が敬愛する幕末の志士・高杉晋作の辞世の句である。同様に、先生自身の人生も、いかに「おもしろく生きる」かを、頑固なまでに追求してきたのではないかと筆者は感じている。
例えば2016年、先生は20年間勤めた弘前大学医学部を辞し、故郷である熊本の、済生会熊本病院に赴任した。定年まであと1年、充分な余力を残しての早期退職だった。
「人生は限られています。医師になってちょうど40年、僕自身が健康で、元気で、身体が動くのはあと何年かと考えてみました。70歳まではなんとなく自信がある。しかし、70過ぎたら分からない。それになにしろ、自分の人生を楽しまないといけない。そこで1年早く辞めて、残りの医師人生で故郷熊本に恩返ししようと決めました。
熊本の、不整脈の診療をレベルアップできれば、それが恩返しになると考えた」
これまでの43年の医師人生で、先生が最も心血を注いできたのは、不整脈に対するカテーテル・アブレーション治療だ。
不整脈とは、病的な脈の乱れのことで、脈が速くなって動悸を感じたり、逆に脈が途切れたり遅くなったりして意識を失うような発作を起こしたりする。致死的になることも多い。
カテーテル・アブレーションは、心臓の拍動リズムに異常を来し、心拍数が多くなるタイプの不整脈に対して有効な治療法で、足の付け根などの太い血管からカテーテルを挿入し、心臓内部の不整脈の原因となっている部分を高周波電流で焼き切る。