「在庫は、乳製品と同じだ」

 1998年にコンパックから来たティム・クックは、在庫管理というジョブズにとって一番苦手であり、価値さえ感じていなかった本質的かつ重要な問題を、長年培ってきた高度なオペレーションのマジックで革命的に改善していった。

 ジョブズと同様にティム・クックは、細部にまで口を出す経営者だ。ただし、クックの場合は製品に対してではなく、在庫管理の表計算スプレッドシートを相手にして、だった。

 倹約家で、シゴト人間のティム・クックの会議は4~5時間と長時間に及ぶことがざらである。在庫を1点ずつ細かく追いかけるには時間がかかる。長時間のマラソン会議になる覚悟で部下たちは準備をし、万全の態勢で会議に臨まなくてはならなかった。

 そして、ティム・クックは在庫に関し、部下たちに常々こう諭していた。

「乳製品と同じように考えて管理すべきなんだ。もし、賞味期限を過ぎたら問題だ」

 この言葉はアップル社員たちにとって目からうろこだった。在庫は時間の経過とともに腐っていく。古株のアップル社員たちはあっけに取られたが、クックの指摘は見事に本質を突いていた。

 クックが財務体質を強化したからこそ、ジョブズは資金繰りの心配をせずイノベーションに精力を注ぐことができたのだ。

 ジョブズが亡くなった時にアップルは、約816億ドル(約9兆円)のキャッシュをたくわえていた。そして、ティム・クックは、CEOを引き継いでからの6年間でアップルのキャッシュを約3倍強の約2689億ドルにしてみせた。もし、ティム・クックのオペレーション力がなかったら、アップルはiPhoneを生み出す前に資金切れを起こしていたかもしれない。

(経営コンサルタント 竹内一正)