アベノミクスの真価『アベノミクスの真価』
原田 泰、増島 稔 編著
(中央経済社/2000円)

 厚生労働省が発表する「毎月勤労統計」の調査過程の一部で不適切な行為があった問題で、雇用保険などの給付額が少なかった人は延べ2000万人規模に達し、過少に給付された額は500億円以上になることが分かった。これは、国の根幹を成すばかりではなく、賃上げを柱の一つに掲げるアベノミクスの成果を測るものでもある。

 こうした中、『アベノミクスの真価』は、量的・質的金融緩和(QQE)により、経済は持続的に改善していること、物価上昇を妨げるさまざまな要因を超えて、確実に物価を引き上げていること、QQEの副作用と言われているものは誤報であり、そのようなものはないことを明らかにしている。

 第1章では、大胆な金融緩和政策を行っているにもかかわらず、なぜ経済の回復が遅いのかについて考察する。第2章では、人手不足なのに、なぜ物価も賃金も上がらないのかについて考察する。第3・4章では、企業はなぜデフレ的な行動しか取れないのか、利益も雇用者所得も上がっているのに、なぜ投資も消費も増えないのか、第5章では、円安になっているのになぜ輸出が伸びていないのかについて、それぞれ考察している。

 第6章では、公共投資や減税の景気刺激効果は小さいのに、なぜ消費税増税の景気抑制効果は大きいのかを考察し、第7・10章で生産性を引き上げないとデフレ脱却はできないという議論に反論する。そして、第8・9・11・12章では、QQEの限界や、銀行の金融仲介機能を低下させ、かえって金融緩和効果を抑圧する可能性や出口の危険性について反論している。

 かねて日本銀行審議委員の編著者は、2017年刊行の『アベノミクスは進化する 金融岩石理論を問う』などで、アベノミクスの金融政策に対するさまざまな批判について、丁寧に反論してきた。

 本書でも、世界的に見ればリフレ派の考えこそが主流とし、現在「あなたはデフレ派ですか」と問われて「はい、そうです」と答える人はいないという意味では、今や全ての人がリフレ派と説く。

 もっとも、こうした主張については、賛否両論があろう。しかし、本書では、世界的なベストセラーである米ハーバード大学のマンキュー教授が書いた経済学の教科書でも、金融政策は名目GDP(国内総生産)や、物価、為替レートに影響を与え、短期においては実質GDPや生産、雇用に大きな影響を及ぼすと書いてあると踏み込む。そして、金融政策によって2%の物価上昇率目標を達成し、かつ短期的には実質GDPや雇用を拡大させることができると喝破している。

(選・評/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト 永濱利廣)