
永濱利廣
物価高やトランプ関税の家計負担軽減策で議論されている消費減税と現金給付を比較すると、GDP押し上げ効果は消費減税が大きいが、インフレによる税収増の迅速な還元を優先するなら給付金が有効だ。だが議論は参院選をにらんだ政党のアピール合戦の様相になっており、財源論を含め政策論を深める必要がある。

トランプ政権発足や日銀利上げでスタートした2025年の日本経済は人手不足による春闘の高賃上げ維持などで実質賃金のプラス化や大阪・関西万博の経済効果などで1%程度の実質GDP成長率が見込まれる。だが関税引き上げなどのトランプ政策次第では大きく変わる可能性があり、波乱含みだ。

物価上昇で消費が低迷しているが、物価の中でも上昇が激しい生活必需品の消費割合が高い低所得層や中流層の生活困窮化が進んでいることが大きな要因だ。社会保険料負担や高齢無職世帯の増加などもあってインフレの下で生活格差が成長の足かせになっている。

石破新首相は財政健全化を重視するとされるが、「経済あっての財政」という考え方も示している。日本経済は長く続いたデフレ時代のマインドが残り、家計の消費も弱い。新政権の政策運営は、経済の正常化を実現するまでは民間の負担増や財政金融の引き締めを我慢することが重要だ。

物価上昇で消費が低迷しているが、物価の中でも上昇が激しい生活必需品の消費割合が高い低所得層や中流層の生活困窮化が進んでいることが大きな要因だ。社会保険料負担や高齢無職世帯の増加などもあってインフレの下で生活格差が成長の足かせになっている。

老後必要資金は4000万円という説は高インフレが続く非現実的な前提のものだ。直近家計調査のデータを基にすると、平均的な高齢夫婦無職世帯の貯蓄額(1604万円)で2%インフレを加味しても27年弱は生活を維持できる。ただし貯蓄額が300万円未満の世帯が15%を占めるなど世帯によって余裕度にかなりの幅がある。

24年度の設備投資額は、企業の減益見通しの中でもバブル期の名残がある1991年度の過去最高を更新する可能性がある。経済安全保障や戦略産業育成などで政府は投資支援策を掲げるが、円安や新興工業国の人件費高騰などを追い風に、企業の国内回帰や経済構造改革を進める好機だ。

新紙幣発行の一般的な目的や動機とされるのが偽造防止である。しかし、そのほかに今回の紙幣刷新には「キャッシュレス化の促進」や「タンス預金のあぶり出し」などの隠れた狙いも推察される。本稿では、約20年ぶりとなる紙幣デザインの刷新と今夏の発行開始に向けて、そのさまざまな効果を分析する。

内閣府が公表した昨年7~9月期の家計貯蓄率が、8年ぶりにマイナスに転じた。家計貯蓄をめぐっては少子高齢化の影響が懸念され、貯蓄の減少は国債消化や財政政策、経常収支へ支障を及ぼすと問題視されているが誤解があり、ISバランスなども緻密な分析が必要だ。

日本は2023年に、GDPでドイツに抜かれる見通しだ。ドイツは海外企業の進出を呼び込み、経常収支黒字の多くを貿易で稼ぐのに対し、日本は国内生産空洞化で貿易赤字に転落、GDPに含まれない対外証券投資や海外現地法人の利益で経常黒字を維持しているからだ。人材育成や規制緩和を進め日本への直接投資を誘う「立地競争力」を高める必要がある。

経済対策で焦点の「減税」は、食料品値上がりの負担軽減では消費減税は政治的ハードルが高く所得減税や給付金が現実的だ。赤字企業の賃上げ促進では減税より社会保険料の負担軽減のほうが有効だ。

政府は中間層拡大を狙った資産所得倍増計画でNISAの非課税投資枠拡大や恒久化を決めたが、貯蓄から投資へのシフトには他にも金融教育拡充や経済の成長力を高める取り組みが必要だ。

総合経済対策は財政規模が39兆円と膨らんだが、GDPの押し上げ効果は10.3兆円にとどまる。電気・ガス補助金は原油などの値上がりを十分には補えず、賃上げ促進や訪日客拡大も効果は未知数だ。

アベノミクスはこの10年あまり日本の経済政策の基本となってきたが、大胆な金融緩和は円安・株高で成果を上げたが、機動的な財政政策と成長戦略では課題が残った。成長戦略は喫緊の課題だ。

ウクライナ危機などの影響を受けたガソリンや食料品などの物価上昇に対する緊急対策は、石油元売りへ補助金など効果が未知数な事業や「一時的な痛み止め」の色彩が強く、抜本策は先送りされた。

岸田政権初の経済対策は財政支出規模で過去最大だが、18歳までの子どもへの給付金など政策目的が曖昧な事業やガソリン急騰対策のように効果が未知数のものがありGDPの押し上げ効果は限定的だ。

新首相になる岸田文雄前自民党政調会長が掲げる「令和所得倍増」を実現するカギは、需給ギャップが一定程度プラスになるまで財政健全化を急がず、増税を我慢し積極財政政策を続けられるかだ。

菅義偉首相の突然の「出馬とりやめ」で乱戦模様の自民党総裁選に立候補した4氏の経済政策は、「アベノミクス」との関係でいえば、高市氏が「継承・強化」 岸田氏が「継承・進化」に対し、河野、野田氏が距離を置いている。

「物価の二極化」が進み、生活必需品の価格上昇は「貧困化する中間層」に打撃を与え、実質的な所得格差を拡大している。コロナ禍で深刻化する「スクリューフレーション」は日本経済の大きな課題だ。

緊急事態宣言が延長されたが、ワクチン接種の遅れからさらなる延長や対象地域拡大も懸念される。集団免疫の獲得時期も欧米に大幅に遅れ、経済回復の「二極化」のもと日本は後発組になる恐れがある。
