私たちの仕事や生活の中にある膨大な量の物的資産や、経験と勘に頼って行われてきたアナログプロセスが、さまざまな領域でデータ化され始めている。これらのリアルデータはビジネスや社会をどのように変えていくのか。企業や個人はどう対処すればよいのか。東京大学・森川博之教授の最新刊『データ・ドリブン・エコノミー』(ダイヤモンド社)より内容の一部を公開する。
過去20年間はデジタル革命の「助走期」
マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの創設者、ニコラス・ネグロポンテが書籍『Being Digital』を著したのは1995年だった。ネグロポンテは「アトム(物質)からビット(情報)へ」という言葉で、デジタルがメディア、ライフスタイル、職場環境などあらゆる社会構造を根本的に変容させると予測した。
その予測から20年。インターネット、スマートフォン、有線・無線のブロードバンドがもたらした影響は、「デジタル革命」と言っても過言ではない。いまやテレビはスマホアプリの一つとなり、放送事業者とメッセンジャーアプリ事業者がライバルになっている。金融分野では、銀行とIT企業が競うフィンテックブームが起きている。デジタル化の進行が業界の垣根を壊し、社会に大きな影響を与えつつある。
しかし私は、過去20年間はデジタル革命の「助走期」にすぎず、本当の意味でのデジタル革命はこれから幕を開けるととらえている。まもなくICT(情報通信技術)が真価を発揮する「飛翔期」に入り、デジタルが社会の隅々まで浸透していくだろう。
これまでの「助走期」は、デジタル革命のインフラが整備されるまでの期間と言い換えることができる。そのインフラの主な柱は、インターネット、スマートフォン、クラウド、センサ、無線通信などのテクノロジーである。
インターネットが登場し多くの人が使い始めたことによって、通信環境を整備するために光ファイバへの投資が行われ、巨大な光ファイバ網が出来上がった。光ファイバ網が充実したことで、そこからクラウドの技術が発展していく。
モバイルの発展により、有線から無線へと舵が切られ、無線技術が発展した。この無線技術は、スマホの普及によって飛躍的に成長していく。さらにスマホの普及は、センサ技術も高めていった。1台のスマホには、加速度センサ、近接センサ、照度センサ、磁気センサ、指紋認証センサなどさまざまな種類のセンサが必要となる。これがセンサの小型化、省力化、コストダウンを促した。