助走しながら、必要となる技術をつくり込んでいった。そこに莫大な資金が投下され、ふと振り返るとそれらがインフラになっていた。いわば、偶然の産物だ。インフラを整えようとして計画的に整備してきたわけではなく、たまたま状況が整ってきて現在がある。2015年にIoTという言葉が出てきたのも、テクノロジーが成熟したことによって、これらのインフラがさまざまな地域で安価に利用できる環境が整ったからといえる。

これからの「飛翔期」には
デジタルが社会の隅々に浸透していく

 インターネットの登場から現在に至るまで、さまざまなICTが生み出され、それらをもとにIT革命が起こった。eコマースがリアル店舗を脅かし、スマホが急速に社会に普及していった。少し前までCDやDVDで楽しむのが当たり前だった音楽や動画も、いまではアップル(Apple)やネットフリックス(Netflix)などが提供するストリーミング配信が主流となりつつある。

 こうした現象を見る限り、これまでの「助走期」にもデジタル化はかなりのスピードで進展してきたように思える。

 実際、B2Cの分野では、デジタルが人々の生活を大きく変え始めている。スマホを利用している私たち自身も、もはやデジタルとは無縁ではない。日々のニュースや天気予報を、紙の新聞やテレビではなくスマホアプリでチェックしている人も多いだろう。

 しかし、一歩引いた視点で見渡してみると、世の中はアナログで溢れている。そこにはデジタル化されていない膨大な量の物的資産がある。私たちの仕事や生活のなかにも、経験や勘に頼って行われている膨大な量のアナログプロセスがある。これまでデジタル化されてきたのは主にインターネット上で生成されたウェブデータであり、リアルな世界でデジタル化されているものはごく一部にすぎなかった。
ビジネスの領域でも、デジタル化が求められてきた業界は少数だった。IT企業やネット企業、一部の先進的な企業がデジタルを積極的に取り入れてきたものの、その他の大部分の企業は依然としてアナログの世界でビジネスを展開してきた。

 しかし、これまでの「助走期」を経て、デジタル化に舵を切るためのインフラは整った。データ収集やデータ分析のツールも安価に利用できるようになった。グローバル化や経済の成熟化を背景として企業間の競争はますます激しくなっている。デジタルを取り入れて生き残りを図ろうとする企業は、確実に増えていく。

 ここ数年、グーグルなどのIT企業がテクノロジーを武器にして異業種に参入する動きが活発になっている。いわゆるディスラプション(創造的破壊)である。これらの業界では、強い危機感を持ってデジタル化を図ろうとする企業が少なくない。また、製造業のなかには、コマツのように競合他社に先駆けてIoTを取り入れ、競争力を大きく高めた企業も現れ始めている。