いいデザインとは「目的を達成するデザイン」

コルク代表の佐渡島庸平さん佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
株式会社コルク 代表取締役会長
2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。
著書に『ぼくらの仮説が世界をつくる』(ダイヤモンド社)『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE.』(幻冬舎)などがある。

水野 いいデザインとは何か。これはやっぱり「目的を達成するデザイン」なんですよ。たいていは利益追求、追従ですね。お金です。

例えばですが
「人を集めたいです」
「それはなんでですか?」
「うちの会社がよくなるためです」
「それはなんでですか?」
「それはやっぱり利益が安定するためです」となる。

だから経営者に「いや、水野さんに売上が下がるデザインをお願いしたいんです」と言われたら、そういう人とは仕事しないほうがいいですよね。怖い(笑)。絶対嘘だもん。

でも、たまにちょっとびっくりするようなことを言う人はいる。「利益とか全然気にしなくていいから、好きなものを作ってください」と言う人がいるけれど、そんなのはやりたくも何ともない。ぼくは作家じゃないから、目的を達成するデザインをやりたい。

佐渡島 水野さんが「いいデザインとは、お金をしっかりと生み出す」とおっしゃったじゃないですか。お金を払うのは満足しているからで、人をハッピーにしているので、そのデザインを「人をハッピーにするデザイン」という言い方にすることもできると思うんですよ。
なんだけれども、今、ぼくが挑戦したいのは、「資本主義の仕組み」みたいなものをハックしたいというか、出し抜いてみたいなと思うんです。だから、「儲かることがいい」とがんばるのは、なんかすごく悔しくて。作家の人がいい漫画を描いてぼくと作家のあいだで「これ、最高傑作だね!」となっても、結局売れなかったらまったく作家は癒されないんです。

水野 気はすみますけど、満足はしない。

佐渡島 そう、そうなんですよ。結局今は、いいものには「いいな」と思ったらすぐにお金を払うじゃないですか。だけどこれからは、先に心がむちゃくちゃハッピーになって「なんかこれ、感謝したから払わざるを得ないな」というふうに後からお金を払う、みたいなことが起きるだろうなと思っていて。

今の資本主義は全部「先払い」なんですけど、むっちゃ「後払い」させたいんです。後払いさせるものを作ってみたいというか、そういうふうにして人の心をむちゃくちゃ満足させたい。とにかく、人の心をむちゃくちゃ満足させてみたいんですよ。でも、現状のシステムだと、満足を予想して先にお金を払うんですよ。

水野 予想して払うし、極端に言ったら「1万円払ったらすげえいいラーメンが食える」って思っちゃう。まずお金によって感情がコントロールされているけど、そうじゃなくて、感情が先に動いて、後から1200円を払うみたいな、そういうこと?

佐渡島 そういうふうなことをやりたいなあと思ってて、そういうふうに「払いたい!」って思わせるデザインだとか、物語だとかをやりたい。今ぼくと水野さんがやっているプロジェクトは、まだ言えないんですが、ようは「ここにあるもの売ってないの? 欲しいよ」と……。

水野 「欲しい」が先に来ますね。

佐渡島 そう。そのあとに「お金払わせてくれよ」という気持ちにさせるプロジェクトだなと思っているんですよ。じわじわ、じわじわやって「え? この世界観に俺を参加させてくれよ」となるものというか。

水野 たしかに。クラウドファンディングなんか、けっこう近い。

佐渡島 そう、ちょっと近いんですけど、クラウドファンディングをもっと究極的にやってみたいなあって思ってるんですよね。

水野 ぼくらはそのプロジェクトのゴールについて、基金みたいなものを立ち上げて、売上の数%を入れていくとか、そういうことで世の中に還元していったりできるといいよね、という話をしている。
モノを売るより、どちらかというと「作家の生活を安定させる」と言うと言い方が変だけど、作家のサポートをするということ。

それってスポーツ選手も同じだと思うんですよ。セカンドキャリアと言われていて、選手だって早咲きだから、どうしても30、40歳になるともうみんな引退しちゃって、「この先どうしたらいいんだ」、みたいな話になっちゃうじゃないですか。このようなことを応援したい。
その先には、さらに夢を追いかけてる人とか、もしかしたら何か病気で苦しんでいる人がいるかもしれないけど、そういうことを助けていく。そういうことを応援していけたらいいなという話をしています。

佐渡島 段取りが人類の幸せにまでつながっていたとは……。奥が深くて話は尽きません。

※水野学さん、佐渡島庸平さん対談はこれで終わりです。