仕事をより効率・効果的に進めるためのビジネススキルである「段取り」。
一見、自由な発想とは真逆のように見える「段取り」ですが、
実はクリエティブな仕事をする人たちにとっても不可欠なものです。
(段取りの有用性については、第1回の記事を参照ください)
対談最終回は、AI時代におけるクリエイターの役割について。
ここでもやはり鍵となるのは「段取り」だった――。
『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』の著者であり
「くまモン」でおなじみのクリエイティブディレクター・水野学さんと、
『ぼくらの仮説が世界をつくる』の著者であり
コルク代表の佐渡島庸平さんによる対談、
「クリエイターこそ『段取りが必要』」をお届けします。
※2019年1月銀座 蔦屋書店で行われたトークイベントを元に構成しています
<構成:須崎千春(WORDS)、和田史子(ダイヤモンド社)>
(撮影/北澤太地、会場/銀座 蔦屋書店)
100%デザイナーはいらなくなる!?
クリエイティブディレクター/クリエイティブコンサルタント/good design company 代表/
1972年 東京生まれ。1996年 多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。 1998年 good design company 設立。ゼロからのブランドづくりをはじめ、 ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、 コンサルティングまでをトータルに手がける。
著書に『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(ダイヤモンド社)、『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)、『センスは知識からはじまる』『アウトプットのスイッチ』『アイデアの接着剤』(すべて朝日新聞出版)などがある。初の作品集『アイデア特別編集 good design company 1998-2018』(誠文堂新光社)も発売中。
佐渡島庸平(以下、佐渡島) 「デザインするとは何か」について伺いたいんですが……。アドビが「AIによってシンプルなデザインをつくれるサービス」を発表したじゃないですか。AIがデザインをすることについて、水野さんはどういうふうに考えていますか?
水野学(以下、水野) これね、結論からいうと、もう100%絶対にデザイナーはいらなくなりますよね。ただ、そうなるために必要なのが「デザインは決して神がかり的なことじゃない」と認識されること。いわばデザインという名の「宗教」を解体することです。
まだの世の中には「デザイン」というものに信仰心があります。「デザイン信仰」があるから、解体はかなり難しいんじゃないかなと思っています。デザインが神聖なものでなくなれば一気に研究が進んで、AIでもデザインは問題なくできると思います。
ここ(銀座 蔦屋書店)にある本のデータがあれば、たぶん10年くらいはデザインはできると思うんですよ。大量の本データは、コンピューターであればあっという間に蓄積できるじゃないですか。そして、それをどう組み合わせるかの話だけなので、ぜんぜん簡単なことだと思います。
佐渡島 そうなっていったときに、たぶんAIだったら、「みんながどっちのデザインを選んだか」といいう「結果論」でデザインをやっていくと思うんですけど……。
水野 一側面はそうだと思います。
佐渡島 そうですよね。でも、「すぐ選ぶ」いいデザインと「ずっとあるといい」デザインは、違うじゃないですか。
水野 そう、そう。条件の入力項目がすごく多くなる。
佐渡島 そうですね。
「どんなデザインが欲しいの」となったときに「5年間使っても飽きないデザインで」といったリクエストを入れるとか、そういうこと。
だから、「どんな項目が必要で、何を要求するといいか」が決まってないことがほとんどですよね。普段の水野さんのヒアリングは、そこを確認してる感じです。
水野 そうです。まさにそうで、ぼくが「段取り」と呼んでいるのは、まさにそこの部分がメインなんです。
めちゃくちゃ聞くんですよ。佐渡島さんの会社のときもそうですけど、昨日も一緒にお仕事をしている福井県鯖江市の漆淋堂さんに「これをこうしたらこうなるけど、こうなったらこうなって、こうなるけど……どうする?」みたいな、なんかもうずっと作戦会議で話してるんですよ。昼の3時ぐらいから深夜0時くらいまでご飯を食べながら、飲みながら……。
佐渡島 あ、そんなに長く一緒にいたんですね。
水野 ずーっと話してるんです。たまにくだらない話もしたりとかしますけど、それはもう休憩時間で、ずーっと話してますね。
それはその人が経営者だから、やっぱり楽しいんですよ。こちらも楽しいし、向こうも楽しいと思ってくれているはずです。それが楽しくない経営者とはやっぱり仕事は続かないですよね。
だって、「自分の会社がどうなるか」を楽しめない人といくら仕事しても意味がないし、もっというと、そういうビジョンがある人とじゃないと話してても意味がないから、どうしてもトップマネジメント層になっていきますよね。
佐渡島 その層としか仕事ができない、というかね。
水野 そうなんですよ。もしくはすごくやる気のある社員の人としか仕事ができないのはありますね。
佐渡島 水野さんの場合は、求められたこととぜんぜん違う提案をしたときに、一社員だと意思決定できないですもんね。「今回、これを水野さんに頼みに行ったけど、まったく違うことをやったほうがいいって言われました」となると、「それはお前、予算の使い方が違うだろ!」となっちゃいますし。
水野 本当に(笑)。同業の人だったらわかってくれると思いますけど、普通は、「まったく頼まれてないこと」なんか提案しないじゃないですか、どう考えたって。でもぼくは、「まったく頼まれてないこと」を先方に提案するんですよ。
もちろん頼まれたことも提案するんですよ。だけどプラス、「それはさておき、こういうことが大事だと思うんですけど」と提案するんです。
「くまモン」は、まさにそうやって生まれているんですよ。「熊本サプライズのロゴマークを作ってくれ」と言われて作ったんですけど、「ロゴマークで役に立つかなあ」と思ったときに、「いや、これはやっぱり宮崎県知事(当時の東国原さん)みたいな人がいたほうがいいんじゃないか」と思ったんです。
でも「タレント、タレント……。いや、タレントはお金かかるしダメだな」となって、「キャラクターだ」と思ったんですよね。だから、マークを頼まれているのにキャラクターを提案しました。それは、小山薫堂さんというすごい人がいてはじめて通っていくし「薫堂さんだからわかってくれるだろう」と思って提案しているから、話が成立していくんですけどね。