しかし、そのような制度を悪用すれば企業の乗っ取りが秘密裏に行われることもあり得ます。実際に昭和の時代には、大企業を舞台にした企業乗っ取り事件が起きたわけですが、平成に入って上場企業の株券が廃止され、全部電子化されたことで、そうした紛争も起きなくなりました。そしてなくなってみれば、株券が紙である必要がなかったことに、改めて皆が気づきました。紙幣もひょっとすると、そんなものなのかもしれません。

 さて、もう1つの側面が、少額紙幣の必要性です。少額紙幣は、アメリカで生活しているととても便利で、商店で買い物をする際には硬貨とともに少額紙幣が欠かせません。しかし中国では、状況が逆になっています。

 中国で発達したQRコード決済では、スマホをかざすだけで瞬時にお金の支払いが完了します。それも、上海であれば市内のどこでも通用します。そうなると、街に財布を持って出かける必要がなくなるのです。

 では、高額決済はどうするか。それもスマホの中にクレジットカードを入れてしまえばいいし、数百万円に上る支払いなら、スマホの銀行アプリで送金すればいい。プラスチックのカードすら不要で、日常の決済は全部スマホで完了するわけです。

キャッシュレスが当たり前に
新札は「日本最後の紙幣」か

 こうした社会になってくると、街中で現金を持っているのは外国人旅行者だけになってしまうでしょう。これは、実際に上海では「日本人あるある」です。しかし、それは日本人がアリペイを持っていないからというだけの理由です。

 逆に、中国の訪日観光旅行客は、東京のいたるところで中国のQRコード決済によって支払いができるようになっています。足もとですら中国人はそうなのだから、2040年代以降は世界中の外国人観光客がキャッシュレスで見知らぬ街を旅することができるようになるでしょう。

 そのように考えると、渋沢栄一の1万円札、津田梅子の5000円札は、それぞれ日本最後の高額紙幣になる可能性が高いと私は思います。そして、北里柴三郎の1000円札が、将来、かろうじて次の新しい紙幣に置き換わるかどうかでしょう。その可能性を考慮に入れても、私は今回発表された紙幣が日本最後の紙幣になる可能性の方が高いと思っているのです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)