世界を「闘技場」に変えた3つの衝撃、戦略的依存では乗り切れない過酷な未来実存を賭けた競争の時代において、戦略的依存の発想は危うい Photo: Reuters/AFLO

世界は、いつからこれほど不確かな場所になったのでしょうか。『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者、バルファキス元ギリシャ財務相が、戦争・技術・資本に関わる三つの衝撃を手掛かりに、戦略的依存を前提に組み上げられてきた世界秩序の脆さを解き明かします。その問いは、例外なく日本にも向けられています。

 2025年、20世紀後半の世界秩序を支えてきた最後の柱が崩れ、グローバル・システムと呼ばれてきたものの中身は空洞であることが明らかになった。必要だったのは、三つの衝撃だけである。

 第一の衝撃は、ウクライナ戦争で、ロシアが欧州の結集した指導力を前に、勝利へ向かいつつあるという現実だ。ほぼ4年にわたり、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)は危険な二重の立ち回りを演じてきた。一方では、言葉巧みにウクライナの勝利を約束しながらも、それに必要な資金を拠出する意思はなかった。他方では、この終わりの見えない戦争を利用して、域内における新たな政治・経済コンセンサスを推し進めた。すなわち、軍事ケインズ主義こそが、欧州の「ディインダストリアライゼーション(産業の空洞化、脱工業化)」に対する最後の防衛線になる、という考え方である。

 巨額の赤字を伴うグリーン投資や社会政策が、厳しい政治的制約によって事実上不可能となっていた欧州大陸において、ウクライナ戦争は公的債務を軍産複合体に流し込むための強力な口実を提供した。そして語られることのない真実があった。それは、終わりなき戦争が決定的な役割を果たしていたということだ。すなわち、この戦争は、停滞する欧州経済に対するケインズ主義的な需要喚起を行うための、理想的なエンジンだったのである。

 しかし、この矛盾は致命的だった。もしウクライナ戦争が和平合意で終結すれば、こうした需要喚起を維持することは困難になる。一方で、その支出を正当化できる勝利を実現するには、財政的コストが高すぎ、戦略地政学的リスクが大きすぎると判断された。その結果、欧州は、考え得る中で最悪の戦略に落ち着いた。戦況を変えるには足りないが、流血を長引かせるには十分な量の装備だけを、ウクライナに送り続けたのだ。

 いまやロシアが勝利する流れは定まっている(これは予測可能な結果であり、米大統領ドナルド・トランプはそれを早めただけだ)。EUの周到な計画は瓦解した。欧州には和平後の「プランB」が存在しない。なぜなら、その戦略姿勢全体が、戦争の継続を前提に組み立てられていたからだ。クレムリンとトランプ陣営がウクライナに押し付けるであろう、どれほど後ろ暗い和平合意であれ、それが変えるのは国境線だけではない。ロシアが引き続き欧州への脅威であるか否かにかかわらず、欧州は軍需産業ブームという口実を失い、新たな緊縮の時代を迎えることになる。