年々、耳の聞こえが悪くなる“難聴”。年を重ねれば耳が遠くなるのは当たり前…とそのまま放置している中高年層も多いだろう。しかし、加齢による難聴を放っておくことは、さまざまなリスクをはらんでいるという。加齢に伴う“聞こえの悪さ”を放置する危険性について、専門医に聞いた。(清談社/真島加代)
聴力の低下は20代から
始まっている!?
代表的な老化現象のひとつに挙げられる「聴覚の衰え」。耳が遠くなるのは高齢者になってから、と思っている中高年も少なくない。しかし、実際には20代から聴力は衰え始めているという。
「聴力の低下とともに、高音が聞き取りにくくなっていきます。20歳を超えた頃から非常に高音の『モスキート音』が聞こえなくなる人もいますね」
そう話すのは、済生会宇都宮病院耳鼻咽喉科主任診療科長の新田清一医師だ。聴力の老化には、耳の奥にある“蝸牛(かぎゅう)”という器官の衰えが深く関わっている、と新田医師は話す。
「私たちは音を聞く際、耳と脳を使います。まず、耳から入った音は鼓膜を振動させて、耳の奥にある蝸牛に届きます。蝸牛には、音を電気信号に変える働きがあり、その電気信号が脳の聴覚野に伝わります。しかし、加齢によって蝸牛の細胞が弱まると脳に伝わる電気信号も弱くなるので、脳が音を認識しにくくなる。これが『加齢性難聴』です」(新田医師、以下同)
年齢に関係なく発症する「突発性難聴」などの例外もあるが、65歳以上の3人に1人は、なんらかの難聴を抱えているという。しかし、加齢性難聴はゆるやかに進行するので、本人は気づきにくいケースが多いのだとか。
「生活に支障がない状況で、自分の難聴に気づく人は少ないですね。特に中高年層は『自分はまだ大丈夫』という自信があるので、多少の聞き取りにくさを感じても、対策をとる人はほとんどいません。また、年を重ねて、さらに難聴が悪化しても『年だから仕方がない』と、そのまま放置している高齢者が多いのも実情です」