今月3日は「国際耳の日」。電話の発明者であり、聴覚障害者の教育に力を尽くしたグラハム・ベル氏の誕生日が由来で、今年のテーマは「セーフティ・リスン――安全な鑑賞」だった。
2015年、世界保健機関(WHO)は、スマートフォンなどで大音量の音楽を聴き続ける「危険な鑑賞」が広まり、先進・中所得国の12~35歳人口の半数に相当する11億人に難聴リスクが生じていると警告を発した。
大音量にさらされることで生じる聴覚障害は「騒音性難聴」といい、地下鉄構内なみの85~100デシベルの音量に8時間以上さらされる工事現場や、工場で働く人の職業病とされてきた。
「騒音性難聴防止のためのガイドライン(厚生労働省)」では、環境騒音が85デシベル以上で常に50人以上の労働者が働く作業所については、半年に1回の聴力検査を義務付けている。
一方、音楽鑑賞では常に75~100デシベルの音響=騒音にさらされているらしい。
音響(騒音)性難聴の初期には、4000ヘルツほどの周波数域が聞き取りにくくなる。会話で使う周波数域は500~2000ヘルツなので、生活に不自由することはない。ただし、目覚まし時計や電子体温計の「ピピッ」という電子音は聞き取りにくくなる。
さらに、大音量にさらされ続けると難聴が進み、2000~8000ヘルツの広い音域が聞こえにくくなり、生活に支障を来す。
事態を重く見たWHOは今年の耳の日に、国際電気通信連合と共同で安全な鑑賞のためのデバイス基準を公表した。
それによれば、耳に安心なデバイスは、(1)耳がさらされた音量と聴取時間を計測、(2)音量制限、ペアレンタル・コントロールなどの制御機能が付いている、(3)聴取時間の記録や音量計測値に基づき、警告や安全な鑑賞を促すメッセージを発信する機能を持つ、の3点を満たしていることが望ましい。また、音楽を聴くときは音量を平均70デシベル未満に調節し、1日1時間以内にとどめるといい。
子どもにスマホを与える際は、こうした面での約束事も必要だ。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)