個人・組織が持つ「妄想」を「ビジョン」に落とし込み、その「具現化」までを支援する「戦略デザイナー」のBIOTOPE代表・佐宗邦威さん――。最新刊『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』で注目を集める佐宗氏の対談シリーズも第6弾となる。
今回の対談パートナーは、『人を助けるすんごい仕組み』などの著者であり、最近では世界初のエッセンシャル・マネジメント・スクール(EMS)を創設した西條剛央さん。複雑系の科学にも精通する西條さんは、VUCA時代、複雑系時代を生きるうえで、どのような視点を必要だと考えているのか。(後編/全2回 構成 高関進)

感じたことを「なかったこと」にしない

佐宗邦威(以下、佐宗) 最近読んで感銘を受けたのが、経営学者の野中郁次郎先生と、哲学者の山口一郎先生の共著『直感の経営 「共感の哲学」で読み解く動態経営論』(KADOKAWA)という本です。フッサール的な思想を入れて経営学を捉え直そうという内容ですが、じつは『直感と論理をつなぐ思考法』と同時期に出版されているんですよね。

西條剛央(さいじょう・たけお)
Essential Management School代表。本質行動学アカデメイア代表取締役。若手研究者の登竜門といわれる日本学術振興会特別研究員DCおよびPDを経て、最年少で早稲田大学大学院(MBA)専任講師、客員准教授を歴任。専門は本質行動学。MBAでの哲学に基づく独自の授業が注目され、『Forbes』に取り上げられる。2019年より現職。2011年の東日本大震災に際して、構造構成主義(本質行動学)をもとに3000人のボランティアにより運営される50のプロジェクトからなる日本最大級の「総合支援ボランティア組織」に育てあげる。2014年、哲学に基づいて未曾有の災害に対応した功績が認められ、Prix Ars Electronicaのコミュニティ部門にて最優秀賞(ゴールデン・ニカ)を日本人として初受賞。「ベストチームオブザイヤー2014」「最優秀グッド減災賞」「NPOの社会課題解決を支えるICTサービス大賞」受賞。著書に『構造構成主義とは何か』(北大路書房)、『人を助けるすんごい仕組み』(ダイヤモンド社)、『チームの力』(筑摩書房)など多数。

それで思ったのは、「お互いの直感や妄想をぶつけながら、正解や真実をつくっていく」みたいな動きが、さまざまな分野で同時多発的に生まれているのではないかということです。イノベーションの分野でもそうですし、西條さんのエッセンシャル・マネジメント・スクール(EMS)は、まさに教育分野でそうしたことをやられています。
いまのタイミングで一気にこういうテーマが現れ出したことについて、西條さんはどう思われますか?

西條剛央(以下、西條) 論理の限界というか、形式の限界に多くの人が気づき始めたんじゃないでしょうか。僕は、「本質(エッセンス)」の反対は、一種の「形式」だと思うんです。

佐宗 「形式」が「本質」の反対?

西條 形に見えるものは見えやすいから手続き論に走って形骸化していくなど、ある意味本質が見失われます。みんな一生懸命生きているけど、世の中がこんなに変なことになっているのは、本質を見失っているからだと思うんです。
だから本質を問い直す学問を真ん中に置き、望ましい状態を実現するためにマネジメントしていかないと、学問自体の本質も見失われていきます。この「形式の限界」に気づいた人たちが、「美的感覚、感性、直感などがないと生き延びられない、よく生きられない」と思い始めたのでしょう。

論理は、追認可能性の高さが強みですが、他方では人為的につくられたものですから、人を間違った方向へ簡単に導けるんです。間違った前提を置けば、その上にいくらでも論理を積み上げられる。
でも、直感が本当に正しく働いているときは、その罠にはまらないと思っています。たとえば、「この人、なんかおかしいな……」と思いながらも、その人からなぜか距離を取れないというようなことってありますよね。感覚がそう告げていても、多くの人は理性を使って「そんなふうに他人を決めつけちゃいけないな……」とか「いろんな人を受け入れてあげなきゃ……」とかいうように、感じたものを「なかったこと」にしています。
僕ももともと直感派ではありますが、感じていることを「なかったこと」にせず、もっと大切にするようにしたい。これが非常に重要だと思うので、「ビジョン」のことを佐宗さんがあえて「妄想」と言い換えているのも、すごくいいなと思いました。