京都大学の超人気公開講座を書籍化した話題の新刊書『京大変人講座』からの一部抜粋でお届けする本連載。今回からは「システム工学」を専門とする京大情報学研究科の川上浩司特定教授の講義となる。「便利であることは果たして幸せなのか」という問題提起により、効率や利便を追求してきた人類の進歩に一石を投じる。
富士山頂まで行けるエレベーターは
実に便利だろうが、うれしくない
不便なのに、面倒くさいのに人気がある。世の中を探せば、そういうものは意外とあります。
最近、登山やトレッキングを趣味にする人が多くなりました。「登山」を先ほどの「便利・不便」の定義から考えると、まさしく不便です。体力も時間もお金もかかるし、頭も使わなくては安全に登れません。
この不便を工学的にどう解決するか。
私なら「富士山エスカレーター」を開発します。乗れば汗をかくことなく山頂へ一直線です。改良を重ねれば五合目から20分くらいで行けるようになるかもしれません。
いいでしょう? 便利でしょう? これこそ豊かな社会でしょう?
……少々、皮肉めいた言い方になってしまいました。そんなわけがありません。こんな「便利さ」はうれしくないはずです。余計なお世話でしょう。自分の足と頭を使って、汗水垂らして登るという不便さこそ、登山の醍醐味だからです。