決断回数を減らせば重要なことに集中できる

 心理学者のジョン・ティアニーは次のように記している。

「合理的な考え方をする高潔な人間になろうとしても、次から次へと決断をくだしていると、必ず生物学的な代償を支払わされることになる。それは、いわゆる肉体的な疲労とは違う──疲れていることを自覚していなくても──実際には頭の働きが鈍っているのだ(*4)」

 この状態は「決定疲れ」と呼ばれている。「決定しなければならないこと」の数が多ければ多いほど、よい決定をくだすのがむずかしくなるのだ。

 だから1日の最初の食事である朝食よりも、1日の最後の食事である夕食では、不健康なものを食べがちになる。朝は、まだ意志力がいっぱいにみなぎっているからだ。

 決定疲れの状態をそのまま放っておくと、やがて決断をくだすのを回避するようになる。とりわけ人生を左右するような大きな決断をくだす場合、僕たちは最後の最後まで決断を先延ばしにしようとする。

 でも、いくら先延ばしにしたところで、ひるんでしまうような大きな決断を要する問題が消えてなくなるわけじゃない。その問題はじっと待機していて、ますます僕たちを威嚇する。

 本当に進学したい大学はどこだろう? この人と本当に結婚したいのだろうか? この転職の機会を活かすべきか?

 もうこれ以上、決断を先延ばしにはできない状況に追い込まれて、ようやく決断をする頃には、もう集中力がなくなっている。ストレスを感じ、不安でたまらなくなり、心が折れそうになるのも不思議はない。

 こうした状況におちいると、僕たちはつい、ほかのことで気をまぎらわせようとする。酒を飲む、食べる、旅にでかける、延々とテレビを観る……。でも、なにをしたところで問題の根本的な解決にはならない。あいかわらず決断をくだせず、ストレスは溜まるばかり。

 こうした現状を打破するには、その場しのぎの対応でごまかすのではなく、問題の根本的な原因をはっきりさせ、解決しなければならない。

 重荷に感じている「決めなければならないこと」の数を減らそう。そうすれば「本当に重要なこと」に集中できるようになる。

(注)
*4 Roy F. Baumeister and John Tierney, Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength (New York: Penguin, 2011).(『WILLPOWER 意志力の科学』ロイ・バウマイスター、ジョン・ティアニー著、渡会圭子訳、インターシフト)
〔訳注:原注では上記のように記載されているが、該当箇所は見当たらず、下記の記事だと思われる〕
https://www.nytimes.com/2011/08/21/magazine/do-you-suffer-from-decision-fatigue.html