日本全体にオープンイノベーションが必要な時代が来た

――「第4次ベンチャーブーム」ともいわれます。今後の市況や起業・投資環境をどう予測していますか。

村田 景気とベンチャー業界の環境は必ずしも連動しませんが、好況時には社会的に優秀な人が積極的にベンチャー業界に進出し、逆に不況時にはアントレプレナーシップがより高い人々が一発当てるために起業する傾向があります。

 近年は特に、マッキンゼーに代表されるコンサルファームに所属していた人や医者、官僚などで活躍していた人のチャレンジが増えています。彼らは、「医療現場の問題点を解決するベンチャー」といったように、業界従事者だからこそ分かる課題にチャレンジしています。

和田 一時のトレンドだった過去のベンチャーブームとは違い、いまは日本社会全体でオープンイノベーションが必要な時代。私たちとしては、引き続きこの流れを拡充させなければなりません。もちろんどこかで一定の反動や調整は起きるでしょうが、リーマンショックやライブドアショックを体験してきた経験を活かして乗り切るだけ。早々に悲観的になる必要はないと考えています。

――今後注目している投資領域などはありますか。

和田 大きなくくりではありますが、インフラや金融といったデジタルトランスフォーメーションによって業界の構造が変わる領域です。もちろん業界によって影響が表面化するタイミングに差はありますが。特に近年は医療分野が活発です。

 ほかは宇宙やVRやARといったxR、ドローンなどの技術革新が開拓する新領域ですね。具体的な投資先としてはispaceやピクシーダストテクノロジーズなどですが、これらの社会実装を目指す企業には積極的に投資しています。

村田 GPUの高度化や深層学習など、多くの領域でコンピュータサイエンスを利用する環境が整ってきています。宇宙開発やハード開発といったこれまで分野ごとに隔絶されていた領域は、着実に変化が起きています。これから多くの領域がつながり、加速的な進化が起きるのではないでしょうか。

(編集注:本インタビューは4月に実施したが、その後5月16日にインキュベイトファンドの投資先であるSansanの上場が承認された。そこで同社を投資を担当したインキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹氏に追加でコメントを得た。)

――赤浦さんは創業前からSansanを支援をしていたと聞きます。創業者で代表取締役の寺田親弘氏との出会いについて教えて下さい。

赤浦徹(以後、赤浦) 2007年のことです。とあるイベントで、ウイングアークテクノロジーズ(現:ウイングアーク1st)の内野さん(創業者で現取締役会長の内野弘幸氏)に紹介されたのが、寺田さんとの出会いです。当時寺田さんは三井物産に在籍していたのですが、起業することを決めたところでした。

 私はその場で出資をコミットし、Sansan設立時から取締役として会社に参画しています。以来、今まで12年間、毎週1on1(1対1のミーティング)をしています。関係性は今も昔も変わらずフラットです。

――同社はイグジットまで12年です。支援し続けられた理由はどこにあるのでしょうか。

赤浦 3年前にSansanを投資していたファンドは満期になりまして(通常、VCファンドは約10年で満期となる)、出資者の方々へは現物分配させて頂きました。私も自分のファンドの出資者(ゼネラルパートナー)でもありましたので、現物分配をうけ、今は個人株主です。今後も取締役として、株主として、継続して世の中により大きなインパクトを出すべく一緒にチャレンジしていきます。

 12年間株主でい続けた理由については、基本的に全ての出資先長期保有を理想としているからです。一緒に立ち上げて、上場したら終わりということでなく、「世の中に、より大きなインパクトを!」とチャレンジし続けたいと思っているからです。

 エグジット実績にあるダブルスタンダードとAimingは私の担当ですが、上場後1株も売却していません。もちろんファンド期間が残っているからできることです。セレスは2014年にマザーズ上場、2016年に東証一部に上場していますが、こちらも2005年の会社設立に参加してからまだ1株も売却していません。1999年設立のエスプールはファンド期間の問題で上場後売却せざる得ませんでしたが、今も個人株主で取締役として一緒にチャレンジさせてもらっています。各社上場後も成長し続けており、新しい経験を積み重ね、そこで培ったものを新しい起業に活かしています。

和田圭祐(わだ・けいすけ)
インキュベイトファンド 代表パートナー

2004年フューチャーベンチャーキャピタル入社、ベンチャー投資やM&A アドバイザリー業務、二人組合の組成管理業務に従事。2006年サイバーエージェントへ入社し、国内ベンチャー投資、海外投資ファンド組成業務、海外投資業務に従事。2007年シード期に特化したベンチャーキャピタル、セレネベンチャーパートナーズを独立開業。京都大学経済学部卒。
村田祐介(むらた・ゆうすけ)
インキュベイトファンド 代表パートナー

2003年にエヌ・アイ・エフベンチャーズ株式会社(現:大和企業投資株式会社)入社。主にネット系スタートアップの投資及びファンド組成管理業務に従事。2008年より同社ネット系投資部門の責任者を務める。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。メディア・ゲーム・医療・フロンティアテック関連領域を中心とした投資・インキュベーション活動を行うほか、ファンドマネジメント業務を主幹。2015年より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会企画部長兼ファンドエコシステム委員会委員長兼LPリレーション部会部会長を兼務。
インキュベイトファンド
■設立年月
2010年5月
■代表的なポートフォリオ
・フラッグシップファンド:Sansan(2019年6月19日上場予定)、パネイル、Origami、ispace、ピクシーダストテクノロジーズなど117社
・パートナーファンド:ポート、サムライト、Gatebox、エクサウィザーズ、IMCFなど129社
■イグジット済み投資先
・Aiming(IPO),ダブルスタンダード(IPO)、GameWith(IPO)、Gatebox(LINEが買収)、Misoca(弥生が買収)などIPO 12社、M&A 20社
■直近のファンドについて
インキュベイトファンド4号投資事業有限責任組合:111億円(2017年6月)
インキュベイトファンドLP 投資事業有限責任組合:63億円(2018年2月。FoF向けLP投資特化)
※数字はすべて記事公開時点のもの