「想定通り、火災報知機が鳴ることもなく、喫煙できたんだよ。それで気分をよくして、着陸直前にも吸って、到着後さっそうと空港へ降り立とうとしたら、CAにいきなり呼び止められちゃった。

 すれ違いざまにたばこの臭いがしたというんだ。口臭だね。

『お客様こちらへ』と、保安所かなんかへ連れて行かれて、周りを取り囲まれて詰問された。『まずいなぁ』と思ってね。最初は認めないつもりでいたんだけど、雰囲気を読み取って観念したよ。正直に『すみません」ってあやまったら、許してもらえた。さすが『桜の木の逸話』がある国だよね。

 あそこですっとぼけていたら、逮捕されていただろう。我ながら、いい判断だった」

 まったく懲りていない様子にあきれた。

 もしも逮捕されていたら、病院にも大迷惑がかかっただろう。出張の目的は果たせず、ドクターの手術を待っていた患者が命の危険にさらされたかもしれない。マスコミも大騒ぎし、社会的な制裁も免れない。

「口臭が残ることを失念していたのが敗因。改良しないとね。もちろん、もうやらないよ」

 と嘯(うそぶ)いていたが、優秀な頭脳の無駄遣いだ。バレた時の代償の大きさに、まったく想像が及ばないのは、ニコチン中毒ならではの思考力の欠如なのではないか。

 正常な判断力、影響を考える想像力、被害を与える人に対する思いやり等々が、すっぽりと抜け落ちてしまっている。

出火原因ランキングは
放火を抜いてたばこがトップに

 このドクターの事例は、かなり極端かもしれない。

 だが、生命の危険を覚悟しないまでも、台風だろうが深夜だろうが吹雪だろうが、たばこを買いに行かずにはいられない“のび助さん”は少なくない。

 恥ずかしげもなく非科学的なコメントを公開したJTは、相当変だ。

 自分の家族さえ受動喫煙しなければいいとばかりに、ベランダで紫煙をくゆらせるホタル族。副流煙は風に乗り、隣家の室内や隣人の身体を汚染していることに、なぜ想像をめぐらせないのか。