他の経営フレームワークと同様、交渉を構造的に把握できるようになると、思考のスピードアップや考え漏れの排除につながり、生産性が劇的に向上する。交渉のさまざまな類型を知ることも、生産性を上げるために有効だ。
交渉を構造的にとらえる
交渉にも経営戦略やマーケティングと同様に、その効果を高めるための科学的・構造的な分析手法、実行アプローチがある。これは、単なるその場でのテクニックではない。欧米では、交渉がビジネススクールの1年次の科目に入っているように、「交渉の科学」についての理解が進んでいる。
交渉がファイナンスやマーケティングなど他のビジネススキルと大きく異なる点は、「計画→実施→フィードバック→計画…」のサイクルがきわめて短い、とくにフィードバックがきわめて早いことだ。交渉では相手の反応を見ながら頭をフル回転させ、当初の計画を速やかに修正し、次の場面に反映させなくてはならない。そのため、現場での機転が重視され、事前の科学的分析が等閑視されてきた。しかし、効果的な機転は十分な事前準備なしには生まれない。交渉の構造をよく理解し、万全の準備をしているからこそ、効果的なカウンター・オファーが出せるのだ。
交渉の類型
交渉では、下記のように類型化することも生産性の向上につながる。
■交渉者の数による分類:
交渉者が2人(1対1交渉)か3人以上かによって、交渉の複雑さが異なる。2者間交渉では、交渉相手が明確で固定戦略を立てやすいためシンプルな交渉になるが、3者以上の交渉では利害の共通する者が連携しようとするため、パワーゲームの要素が加わり、交渉の構造はより複雑になる。
■交渉の争点の数による分類:
交渉の争点の数によって、交渉者の関係に影響が及ぶ。
単一争点交渉は、価格交渉のように争点が1つのみの交渉である。この場合、交渉者の関係は基本的に対立的だ。交渉者の利害が真っ向から衝突すると、妥協点を見出せずに決裂するおそれがある。
複数争点交渉は、従業員の採用をめぐる交渉のように、賃金や勤務時間、休暇、待遇など複数の争点がある交渉である。複数争点交渉では、ある争点について譲ることで他の争点で相手の妥協を引き出すというように、交渉者が協調しながら相互の妥協点を見出す余地がある。