交渉の巧拙は、個人や企業の将来を直接左右する重要な要素だ。優れた交渉者になるためには、交渉を構造的・科学的にとらえ、交渉の参加者双方が満足できる妥結点を探る作業が不可欠である。

交渉の巧拙が
経営に与えるインパクト

 ここからは、「ゲーム理論」に代わって、ビジネスを行ううえで重要な「交渉術」をテーマに考えていく。

 ビジネスパーソンが成功したり、企業が成長するには、周囲との複雑な関係の中で他者に働きかけ、自分や自社の立場を有利なものにしていく必要がある。このときに決め手になるのが「交渉」だ。交渉がうまくできない個人や企業は、本来獲得できたはずの利益を逃したり、周囲との関係の中で自分の立場を悪化させてしまったりする。また、個々の場面では小さな譲歩にすぎなかったとしても、それが積み重なることで全体として大きな損失につながってしまうかもしれない。たとえば、取引相手との商談で、10万円で売れる製品を9万5000円に値切られてしまうことが続けば、大企業の場合、数十億円、数百億円ものロスに達するおそれがある。

 近年、交渉の重要性はさらに増している。第1の理由は、現在の環境下では交渉の失敗により、不利な状況に追い込まれたり、挽回するのに多大な時間がかかったりするからだ。競争が激しくスピーディになった結果、交渉上の1つの失敗により、競争相手と大きな差がついてしまうおそれがある。第2の理由は、グローバル化の進展である。かつての日本人同士の交渉とは違って、外国人や外資系企業との交渉では「阿吽の呼吸」は通じない。しかも、彼らは伝統的に交渉の科学に精通し、場数も踏んでいる。交渉についてもグローバル・スタンダードで臨まなくては、世界の動きについていけなくなりつつある。

交渉に関する誤解

 交渉に関するよくある誤解の1つは、「交渉の上手い下手は天性のもの」とする見方だ。実際には、リーダーシップなどと同様、交渉は「学習可能な一連のプロセス」である。基礎的なセオリーさえ学べば、用いる交渉スタイルなどに多少の個人差があっても、最終的にはある程度の結果が残せる。