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2019年5月、米中貿易戦争は新たなステージに入った。トランプ米大統領は5月10日、2000億ドル相当の中国からの輸入品に対する関税を10%から25%へ引き上げると公表。中国政府は、6月1日より米国からの輸入品600億ドル分に報復関税を課すと発表し、通商協議が暗礁に乗り上げた。「合意か決裂」という二者択一の交渉結果が経済に甚大な影響を及ぼすとき、証券市場における価格決定も正規分布を前提としたモデルから、二項分布のモデルへと移行する。そのとき、投資行動はどのように変化するだろうか。
米国の狙いを考えれば
今後も米中は衝突を繰り返す
通商協議をビジネスと捉える傾向が強いトランプ大統領は、減速感が見え始めた景気への配慮からか、交渉が決裂する直前まで中国との合意は近いと繰り返し発言していた。しかし米国側の交渉担当者である米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は、中国との協議は進展しているとしながらも「まだ大きな課題が残っている」と慎重姿勢を保っていた。今になって思えば、市場関係者は大統領のツィートばかりに気を取られ、米国政府・議会の意向を看過していた印象は否めない。
米国政府の中国に対する基本認識は、昨年10月にワシントンのハドソン研究所で行なわれたペンス副大統領の講演に強く表れている。ペンス副大統領は講演の中で、貿易問題のみならず中国の略奪的な経済行為や南シナ海での軍事活動、人権や宗教、北朝鮮への関与、米国内での宣伝・諜報活動などの様々な問題に言及し、約40分間にわたって中国共産党を批判した。その上でトランプ政権は、米国の利益を守るために断固として行動すると宣言している。
国際政治に詳しい専門家の1人は、今回の通商協議における米国の狙いは、中国に国際的なルールを守らせることにあると指摘する。そうであるならば、今回の通商交渉が何らかの合意に至ったとしても、他にも解決すべき問題が残されている限り、米中両国は衝突を繰り返すと考えるのが妥当だ。
事実、米国政府は華為技術(ファーウェイ)に対する部品提供の禁止や、中国製ドローンの使用に対する警告など、安全保障の観点から中国企業への締め付けを次々に強化している。一方で中国側も、習国家主席がレアアースの産地を視察したり、国民に持久戦を訴えたりするなど、核心的利益に関しては一歩も引かない姿勢をみせている。