2019年春闘における定昇込みの賃上げ率
春闘では6年連続でベースアップ(ベア)が実施されそうだ。日本労働組合総連合会(連合)が2019年3月22日に集計した結果によると、定期昇給込みの賃上げ率は2.13%である。ベアの金額が明確な労働組合に絞った集計では、ベアによる賃金上昇分は0.62%だ。
企業収益が頭打ちとなり、世界経済の先行き不透明感が強まる中、固定費を増加させるベアの実施に慎重な企業は少なくない。一方で労働需給は逼迫しており、人材確保のために処遇を改善させる必要性があり、全体で見ればほぼ昨年並みの賃上げが実施された。
もっとも、定昇込みの賃上げ率は過去と比べてさほど高いわけではない。ベアが実施された14年以降2%程度で推移している。労使交渉で重視される生活コストとしての物価が上がらないことや、雇用の安定が優先されやすいことなどが理由として考えられる。
中でも、従業員が一定期間に生み出す付加価値、つまり労働生産性の伸び悩みにより、賃上げの原資を確保しにくいことが大きい。内閣府統計等から1人1時間当たりの実質GDP(国内総生産)を計算すると、14~18年の伸び率は平均で年0.4%だった。1990年代の2%超に見劣りし、特に非製造業で生産性が低迷している。
他方、グローバル化の進展や、ITやAI(人工知能)の利用拡大などを背景に、経済構造は急速に変化している。こうした中で、従業員一律の賃上げは時代遅れではないかといった声が聞かれる。
ただし、「総合職」に代表されるメンバーシップ型の日本的雇用システムの下では、従業員の職務が定められておらず、成果と賃金は必ずしも結び付いていない。そのため企業収益を従業員に広く還元するベアには一定の合理性がある。
賃上げ方法の見直しは、職務範囲の在り方を含めた検討が必要だ。この点、付加価値の高い業務は新商品やサービスの企画・開発、対外的な交渉など、マニュアル化できない非定型業務へシフトしている。こうした業務の成果と賃金の結び付きを強め、意欲と能力を発揮しやすくする仕組みの整備が、企業にとって一層重要になろう。
(大和総研シニアエコノミスト 神田慶司)