「経常収支の不均衡」を議論
貿易収支とは異なる姿がそこに
そのように米国の顔色をうかがいながらも、実は今回、日本はG20各国が米国に対して「本当ははっきり主張したいのに言えない」メッセージを伝える舞台回しを務めようとした節がある。具体的には議長国として9日、「持続可能でバランスの取れた経済成長」を実現する名目で、世界における「経常収支の不均衡」をテーマに掲げて議論を進めたこと。そして、市場関係者などの間ではこの裏側に、「二国間交渉による貿易赤字削減にこだわるトランプ米大統領を“説得”する狙いがあるのでは」との観測が出ていたのだ。
どういうことか、順に説明しよう。まず、トランプ氏は貿易収支において、「黒字=勝ち」、「赤字=負け」と捉えている節があり、支持層へ雇用創出につながると訴える材料として、貿易赤字の削減にこだわってきた。そして、対米黒字が大きな国に貿易関税をかけることが貿易赤字を削減し、米国経済にとってもよいことだと固く信じているように映る。
確かに、米国はG20加盟国の中で貿易赤字額が最大。その金額は2018年通年で約8800億ドル(約95兆円)超に上り、うち対中貿易赤字は約4200億ドルと、全体の半分近くを占める。だからこそトランプ氏は巨額の対中貿易赤字を問題視し、中国に巨額の追加関税を迫ってきたわけだ。
ただし、モノの輸出入に伴う取引結果を示す貿易収支は、日本が問題提起した経常収支の一部をなす存在に過ぎない。経常収支はモノだけでなく、旅行者の消費の収支や知的財産使用料などのサービス、配当金といったものを含む、貿易収支よりもっと総合的な国同士の取引の結果を表す統計。トランプ大統領が問題視する貿易赤字だけに目を奪われると、世界経済に潜む問題の本質を見誤りかねないのだ。
なぜ世界経済において、「グローバル・インバランス」と呼ばれる経常収支の不均衡が問題なのか。例えば、この問題によって引き起こされたのがあの2008年のリーマンショックだったとの見方がある。2000年代は中国などの新興国や中東諸国は多額の経常黒字となっていたが、巨額のマネーは内需拡大ではなく、米国をはじめとした先進国への運用資金に充てられた。そして資金が流入した米国では低金利状態が続き、住宅市場でバブルが発生したというわけだ。
最近の経常収支の状況に目を向けると、貿易収支とは異なる姿が浮かび上がってくる。18年の数字で見ると、中国は貿易黒字額では3500億ドル余りとG20で最大だが、経常収支では黒字額が500億ドルに満たず、国別で世界首位のドイツ(約2900億ドル)と比べても決して黒字額が大きいわけではない。