トランプ氏は自業自得?
米財務長官は“まるで他人事”
一方、米国の経常収支は約4900億ドルの赤字と、貿易収支と同じくG20でも突出して赤字額が大きい。さらに経常収支を政府、家計、企業という主要経済部門の収支で分析した場合、米国は政府部門の赤字の規模が圧倒的。つまり、政府の財政赤字(貯蓄不足)が家計の貯蓄を上回り、国全体の貯蓄不足=経常赤字に陥っている。「貯蓄不足」は言い換えると「消費・投資過剰」であり、それが貿易収支の赤字ももたらしている。
直近の財政収支が悪化した要因こそは、トランプ氏自身が打ち出した大型減税策に求められる。その意味では、“自業自得”とすらいえる状況だ。よって日本としてはG20会合で米国に「他国の貿易・経常黒字だけが原因なのではなく、あなたの国の財政赤字が貿易赤字や経常赤字の一因でもあるのだから、二国間の貿易交渉にこだわらず、多国間で経常収支の不均衡是正を探りましょう」と諭したかったのだろう。
実際、会議に出席した財務省幹部は「ISバランス(投資=Investment・貯蓄=Savingsのバランス)の話は出てきた」と述べ、名指しで国の名前が挙がったかは別にしても、先のような議論があったことを示唆した。こうした点を踏まえ、共同声明ではグローバル・インバランスが「依然として高水準かつ持続的」とした上で「対外収支を評価するにあたっては、サービス貿易・所得収支を含む経常収支のすべての構成要素に着目する必要があることに留意する」などと記した。
では、G20会合の結果、米国を“説得”するという試みは目論見通りとなったのか。端的に言ってしまえば、米国の姿勢を大きく変えるほどの効力は期待しづらい。
ムニューシン米財務長官は会議中、米中貿易戦争への批判が相次いだことに対して「私ではなくトランプ氏に言ってほしい」と答えたといい、まるで他人事。最終的な決定権が大統領にあるのは当然としても、その“参謀”ともいうべき人物がトランプ氏を説得しようという姿勢はほぼ見て取れない。「貿易収支より経常収支を見よ」というメッセージの伝書鳩になることなど到底、期待できないのが現状であるわけだ。