今後の日米貿易協議で
批判をかわす狙いとの観測も

 実は日本が経常収支をテーマに持ち出した理由には、別の“隠れた狙い”もあったとの声がある。日本の貿易収支はほぼ均衡状態にあるが、経常収支に関しては今年4月まで58カ月連続で黒字を保ち、18年の黒字額も19兆円超に上る。その多くは海外への投資から得られる投資収益で、中にはもちろん、巨大市場である米国への直接投資や証券投資などが数多く含まれている。

 トランプ氏は対日貿易赤字を問題視するが、このように経常収支を見れば、日本が米国経済に貢献している面も浮かび上がる。よって、日米の経常収支の構造を冷静に見ると、そのような状態であると米国に理解してもらい、13日から閣僚級の交渉が行われる日米貿易協議において「対日批判をかわす狙いがあったのではないか」(野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)というわけだ。

 それぞれG20各国がどれほど理解したかは分からないが、共同声明の内容に合意し、文言が盛り込まれたことに一定の意味がある――。麻生太郎財務相は9日夕の議長国記者会見で、経常収支不均衡の議論に関し、そのような認識を示した。具体策に踏み込んだり、国名を名指ししたりこそできなかったが、共同声明では「過度な対外不均衡の根底にある要素」の一つとして「財・サービス分野の貿易障壁が含まれうる」と書き込み、暗にトランプ氏の貿易関税制裁にくぎを刺したようにも読める。

 財務省幹部によれば、経常収支不均衡にテーマを絞って1時間超を充てたのは、G20会合では今回が初めてのこと。理詰めでも米国の追加関税批判への“包囲網”が築かれつつある今、中国との貿易摩擦が軟着陸に向かえるのかどうかは、もしかするとトランプ氏が経常収支の視点で世界経済を捉える重要性に気づき、貿易赤字への執着を捨てられるかが鍵の一つなのかもしれない。