「逃亡犯条例」改正をめぐる
中国共産党の痛すぎる失敗と誤算

 これに対して、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹紙「環球時報」は、「米国の香港問題への干渉が活発になっている」「米国が香港を米中ゲームのカードに使っている」「条例案への反対派は、政治的な利益のために中国を敵対視する外国の勢力と結託している」と猛反発している。だが、中国共産党は、欧米の批判を押し返すことができなかった。

 中国共産党にとって、欧米の厳しい批判は「誤算」だったに違いない。米国の覇権を驚かすほど急激な経済成長を続けてきた中国は、世界の多くの国に対して札束で頬を叩くような態度をとってきた。カナダやEUは、中国の強い態度に振り回されてきたのだ。

 また、権威主義・ポピュリズムが世界中で台頭し、民主主義の限界が指摘されている。中国は、自らの権威主義的な政治体制が民主主義より優位性があると自信を深めていた。民主主義など恐れるに足りない。批判など無視して、札束をチラつかせれば静かになると甘く考えていただろう。

 だが、ドナルド・トランプ米大統領が米中貿易戦争を仕掛けたことで、潮目が変わっていた。米国への輸出を拡大することで経済成長を達成した中国は、トランプ大統領によって制裁関税をかけられて輸出が停滞した。中国は経済が落ち込み、30年ぶりに経済成長率が6%を割り込むという予測が出てきた。一方、米国経済は好調を維持している。米中貿易戦争は、中国の一方的な敗北の様相を呈している(第211回・P.4)。これまで、中国に対して物申せなかった国や地域も、中国の足元を見るようになってきていたのだ。
 
 トランプ大統領本人は、「中国と香港の双方にとって良い方に解決してほしい」と述べて、表面的には中国共産党や香港政府への直接的な批判は避けている。しかし、中国を追い込んだ「ディールの達人」トランプ大統領が、さらに中国を攻める格好の材料を見逃すはずがない。

 絶対に譲歩しないはずの中国共産党が、慌てて条例改正案の審議先送りを香港政府に指示したのは、トランプ大統領の介入を本気で恐れたと考えるのが自然だ。それならば、最初からこんな最悪な時期に、条例改正を進めなければよかったのだ。中国共産党は、甘すぎたのだと断ぜざるを得ない。

「逃亡犯条例改正」の先送りは、習近平国家主席の統治下では前例のない「譲歩」だ。中国共産党は間違うことがない「無謬性」を前提とした権威主義的統治には、「痛すぎる失敗」を国内外に晒すことになってしまった。