「老後2000万円」報告書は
建前上専門家の提言に過ぎない
金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月3日)が「老後資産2000万円不足」と指摘したことを受けて、「年金100年安心」はウソだったのかなどと野党が国会などで糾弾、政府が報告書を撤回する騒動に発展した。
報告書に多少の不備はあるとしても、7月に予定されている参議院議員選挙の争点を探していた野党の「言いがかり」に近い印象もあるなか、報告書を撤回するなどして事実を説明しようとしない政府の姿勢こそが、大きな問題である。与野党ともに、年金制度の本質的な問題から逃げており、安倍政権の政策形成過程は相変わらず不透明である。
報告書が炎上したことを受けて、麻生太郎金融担当大臣は、6月11日の記者会見で、「正式な報告書として受け取らない」と表明した(『日本経済新聞』6月11日夕刊)。また同日、自民党の二階俊彦幹事長は、「国民に誤解を与えるだけではなく不安を招いており、大変憂慮している。撤回を含め厳重に抗議している」と述べた(同日経より)。
報告書は、本来であれば金融審議会の総会を経て公式な文書となる見込みだったが、麻生大臣の指示を受け、今後の政策立案に報告書を活用しないとしている。
そもそもこの報告書は、建前としては専門家の意見・提言に過ぎず、この内容を実際の政策に取り入れるか否かは政府の判断である。今回に限らず、政府の審議会や研究会の報告書も同様の性質のものである。
したがって、政府としてどう対応するかは政府が決めることであり(政策は国民が選んだ政治家が決めるのが、民主主義の基本的なルールだから)、「撤回」などということはおかしいのだ。「専門家のご意見はうかがった。これを踏まえて政府として適宜対応する」と言えばよいだけの話である。