第3章

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「高脇なのか。今までどこにいたんだ」

 森嶋が呼びかけたが返事はない。しかし、携帯電話の向こうから聞こえてくるかすかな息遣いはたしかに高脇のものだ。

「家族に連絡は取ったのか。研究室には連絡したか。みんなが心配している」

〈僕は大丈夫だ。心配掛けて悪かった〉

 いつものぼそぼそした高脇の声が返ってきた。

「今どこにいる。会えないか」

 しばらく沈黙が続いた。

〈神戸だ。ポートアイランドという人工島だ。そこの計算科学研究機構にいる〉

「京スーパーコンピュータを造った研究所だな。世界トップクラスの高速計算の出来るスーパーコンピュータだ」

「京」は理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピュータシステムだ。神戸市ポートアイランドにある理化学研究所、計算科学研究機構に設置されている。

 2011年6月には世界最高性能を達成している。開発費は1100億円以上、年間維持費だけでも100億円を必要で一時その存続が問われた。その用途は幅広く、生命科学、エネルギー、防災、宇宙工学などのシミュレーションに用いられている。

 巨大地震や津波による複合災害においても、総合的な予測が可能になった。各震源域ごとに約1000通りの巨大地震や津波の発生パターンを分析し、地域全体での被害予測を算出したり、道路が不通となった場合も想定した津波襲来時の避難予測も出来るようになったと聞いている。

〈そうだ。明日、計算科学研究機構から正午に重大発表がある〉

「地震についてか」

〈聞いてくれれば分かる〉

 一瞬の躊躇を感じたが、携帯電話は切られた。