「我が国を取り巻くあらゆることです。近づく地震、切迫した経済状況、格付けでは、すでに3段階一気に下げられました。日本を狙っている投資ファンドがあるとも聞いています。そして今後さらに重大になる少子高齢化の現状などです」

「それで首都移転という結論ですか」

「世界は日本に大胆な改革を求めています。それは国民も同じです。他に現在の国民の閉塞感というか、沈滞ムードを打開する方法はありますか」

 殿塚は値踏みをするように総理を見つめている。総理は思わず視線を外した。

「首都移転をやるとして、具体的にはどのくらいの期間を考えておいでかな」

「具体的とはどの程度までです」

「今から着工までの期間です。まずは、首都移転法案を国会に提出して、審議し採決まで持っていく間の時間です」

「出来れば今国会中に決めることが出来ればと思っています」

 総理は、殿塚の顔つきが変わるのを見逃さなかった。たしかに秘書の言葉通り、彼は焦っているのだ。道州制の導入に個人的な思い入れがあるのは知っているが、他に何かあるのか。

「現実的に可能ですか」

「すでに法案作成に入っています。内閣での同意はすでに出来ている。いや、大して難しいものではありません。法案さえ通してしまえば、具体的なことはあとからなんとでもなります。ただやはり、抵抗のある議員も多い。反対する国民も多いと思います。特に首都圏の国民は黙ってはいないでしょう。ということは、首都圏選出の議員からも猛反発を受けるということです。反対派議員が反対派国民のあと押しで膨れ上がれば、やっかいなことになります」

「そういう勢力が育つ前に国会を通してしまおうとお考えですな。野党第一党と組めば、可能なことだ」

「こういう話は、ずるずると長引かせる問題でもない。法案提出後は、出来る限り短期間で採決まで持ち込みたい。その折に協力していただきたいという話です」

「首都移転単独の法案ですか」

「前の首都移転の話が立ち消えになった理由の一つに、移転費用がかかりすぎるということがありました。今回の移転計画には移転費用は極力抑えるように指示を出しています。そうなると必然的に小さな政府にならざるを得ない。地方分権はその流れとして当然、浮かび上がってきます」

 総理は必死で村津の言葉と昨夜徹夜に近い状況で仕入れた知識を思い出しながらしゃべった。

「道州制の流れになるのは必然でしょう。そこで道州制に詳しい殿塚さんの知恵をお借りしたいと考えた次第です」

 殿塚は考え込んでいる。たしかに即決できる内容でもない。野党第一党、自由党の党首でもない殿塚の一存で決めるわけにはいかないのだろう。

(つづく)

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