クローバック条項とは、巨額損失や重大な不正会計などが発生した場合、状況に応じて取締役に役員報酬を会社に返還させる条項。過度なリスクを伴う強引な経営手法などを抑制する効果があるとされる。考える会がシャイアー買収による将来の減損リスクを懸念していることが、提案の背景にある。

 欧米では多くの企業で導入されているが、日本では野村ホールディングス、コニカミノルタなど一部企業でしか導入されていない。日本では経営ミスの責任は取締役が「自発的にとる」企業文化が色濃いことが一因のようだ。導入済みの日本企業でも、「定款で規定しているのは把握する限り1社もない」(武田薬品)という。

グローバル規定が内規に盛り込まれる公算

 武田薬品は今年1月、シャイアー買収を完了し、世界有数のメガファーマ(巨大製薬会社)になった。加えてフランス人のクリストフ・ウェバー社長兼CEO(最高経営責任者)を筆頭に、経営中枢の大部分は欧米企業からキャリアアップで入社した外国人だ。それにもかかわらず、グローバル基準の定款導入を拒んだ。

「取締役の経営判断が不必要に保守的になり、結果として株主利益に反する」「別の内規などを基に、既に同様のことを実行可能」「定款で規定するとフレキシビリティ(柔軟性)がなくなる」というのが、その理由だ。

 6月中旬になってISSなどが株主提案に賛成表明をし、考える会も記者会見。ISSは自己資本利益率(ROE)が低迷していることから、ウェバー社長兼CEOの不信任推奨も表明した。焦った武田薬品はその数日後にホームページ上で反論リリースを五月雨式に発表。クローバック条項に関しては、「社内規定(内規)を整備することで株主の皆様のご要望に応えていく」(坂根正弘取締役会議長)と、歩み寄る姿勢を示した。

 外国人の株主が5割を超えるとみられる武田薬品だが、「株価上昇に直結しない議案にどれほど関心が集まるか」(業界アナリスト)と、クローバック条項の可決に懐疑的な声は少なくなかった。懸念通り、一部創業家筋らによる3度目の株主提案(定款への導入)自体は賛成が出席株主の3分の2に届かず、否決された。

 だが前述のように、クローバック条項が内規に規定される道は開けた。総会で経営陣は「遅くとも2020年5月までに正式な方針を策定し、公開する」と説明した。