創業214年の老舗くず餅屋が快進撃を続けている。この10年で経常利益は6倍。従業員180人の会社には就職希望の新卒学生が1万7000人も押し寄せる。成長のきっかけは、かつては社員と衝突してばかりだったという8代目社長の「リーダーをやめる」という決断にあった。(ノンフィクションライター 窪田順生)

10年で経常利益6倍!
214年続く老舗の快進撃

「船橋屋」の代表取締役、8代目当主の渡辺雅司氏従業員180人の船橋屋には、就職希望の新卒学生が1万7000人も押し寄せる。8代目当主の渡辺雅司氏が作った組織の魅力とは?

 皆さんは「老舗」と聞くと、どのようなイメージが頭に浮かぶだろうか。

 代々受け継がれてきた「のれん」を守る、伝統と格式を重んじる、などなど、どうしても保守的な組織を連想してしまうことだろう。しかし、そんなイメージとかけ離れた老舗がある。

 創業した214年前から主力商品はまったく変わっていないのに、成長を続けており、この10年で経常利益はなんと6倍。従業員180人の会社であるにも関わらず、就職希望の新卒学生が1万7000人も押し寄せている。

 そんな「老舗らしからぬ老舗」として注目を集めているのが、東京・亀戸の「船橋屋」だ。

 文化二年(1805年)、江戸っ子たちが参拝や行楽に訪れて賑わう亀戸天神の境内で創業した船橋屋がブレることなくつくり続けてきたのは「くず餅」――といっても、これは関西に多い「葛餅」とまったく別物で、小麦粉からグルテンを取り除いたでんぷんを木の樽で、なんと450日間も熟成させた「発酵食品」だ。

 このモチモチした独特の食感に、黒糖蜜ときな粉をかけて頂く「くず餅」は、江戸の「甘いもの屋番付」で「横綱」とされるほど江戸っ子を魅了して、西郷隆盛、芥川龍之介、永井荷風らからも愛された。

 では、そんな「江戸の老舗」が、なぜここにきて経常利益が6倍となるような成長を遂げ、今時の若者たちが就職したいと殺到する人気企業となっているのか。その疑問を船橋屋の代表取締役、8代目当主の渡辺雅司氏にぶつけたところ、こんな言葉が返ってきた。

「マーケティングの強化や人材開発などに地道に取り組んできた結果ですが、中でもやはり大きいのは、ワンピース型の組織に変わったことです」