“黒い金庫番”は米国の制裁対象

 キーマンとなる男の名はゲンナジー・ティムチェンコ。プーチン大統領の“黒い金庫番”と呼ばれ、ロシアのクリミア半島併合をきっかけに始まった米国の経済制裁対象に指定されている。

 ティムチェンコ氏は急成長を遂げたノバテクを支えたとされ、ノバテクの株を23%超保有する大株主で、取締役も務めている。米経済誌フォーブスの19年の億万長者リストに名を連ね、保有資産は2.2兆円にも上る。

 ティムチェンコ氏とプーチン大統領の関係は、プーチン大統領がサンクトペテルブルク市長を務めていた1990年代から始まったとされる。ティムチェンコ氏はサンクトペテルブルクの柔道クラブを創設し、プーチン大統領はその柔道クラブの名誉総裁を務めている。

 ティムチェンコ氏は石油トレーダー業の発展に力を入れ、2000年に石油貿易会社のグンヴォルを設立。ロシア産原油の輸出を手掛け、世界第4位の石油トレーダーに成長した。ロシア国内の製油所やパイプラインの建設も引き受け、巨万の富を築いた。

 さらに2007年、ルクセンブルクに投資基金「ヴォルガ」を設立し、ノバテクに出資。ノバテクは北極圏のLNGプロジェクトで急成長を遂げた。

プーチンが退任すれば、キーマンの地位も危うい?

 グンヴォル、ノバテクの急成長の陰には、いずれもプーチン大統領の後押しがあったとされている。アーク2を含むノバテクが手掛ける北極圏のLNGプロジェクトは、ロシア政府の補助金や免税措置によって“げた”を履かされている。

 米政府はティムチェンコ氏がプーチン大統領の資金源になっていると断定し、民間人ながら制裁対象に加えたのである。

 権力闘争が激しいロシアでティムチェンコ氏の隆盛がいつまでも続くか見通せない上、プーチン大統領が退任すれば、ティムチェンコ氏の地位も危うくなる可能性は小さくない。業界関係者は「プーチンの後はプーチンとも言われるが、永遠には続かないはずだ。プーチンがいなくなれば、ノバテクは厳しい立場に追い込まれるに違いない」と指摘する。

 物産がアーク2に出資するのは、米政府による経済制裁、ロシアの政策変更のリスクを負うことを意味するわけだ。