他の医師にかかっていた時は一生懸命、点滴を静脈に刺そうとしていて、それを患者さんは痛がっていました。その患者さんがたまたま当時私のいた在宅医療機関に移ってこられたので皮下点滴にしました。皮下点滴は1回で入りますから、痛がることもなく、患者さんもご家族もすごく喜んでくれました。
昔は皮下点滴も常識だったのですが、途中から静脈に点滴するようになり、静脈からのほうが優れているという思い込みができてしまったのですね。
実際は皮下でもできることは多いのに、医療者も一度これがいいと思うと、なかなか変わっていかないところがあります。
やはり日々の勉強と同時に、しっかり理解している人が繰り返し発信して変えていかなければならないと感じますね。
自分の価値観を医療者に伝える
後閑:患者さん自身が自分の価値観を医療者に上手に伝えていくことも大事だと思うんです。
当然、多くの医療者は「使命感」から積極的に治療を行いたくなってしまうし、たしかに命を延ばすことも医療の目的ですが、患者さんにとっての「質」に関しては、伝えないと医療者にはわからないですからね。
大津:看護師さんには言いやすいのでいろいろ伝えていても、医師には言わないという患者さんは多いです。
やはり上手に伝えているなと感じる場合は、患者さんが医師にちゃんと話していますね。
「自分としては、最後は家がいい」などという大事な自分の思いやイメージを、人を選ばずに伝えていくことが重要です。
後閑:患者さん自身が医師に自分の価値観を言うのも大事だし、医師も自分に言われていることがすべてだと思ってほしくないですね。
どなたかが「患者は医者の前で最高の5分を演じる」と言っていました。
本当にそうなんですよ。私たち看護師には「痛い」「辛い」「こうしてほしい」と伝えても、医師の前では全然言わなかったりするものです。
ですから、医師が「いや、言われていないから」と私たちの話を聞き入れないこともあるので、お互いにもう少し歩み寄れたらいいなという思いはあります。
大津:人間って、相手によって違う面を見せたりするものですよね。
私も病院で、患者さんが亡くなった後に振り返りをすると、スタッフそれぞれが私の知らなかった患者さんの一面を引き出していたことを知るんです。
なぜ生きている時にこれが共有できなかったのだろうか……と悔いが残ることもありました。
ある男性患者さんは、娘さんのことが気がかりで、いつも「娘はこれからやっていけるのかな」という心配を看護師さんには話していたのに、医者には一切、言っていなかった。
一方、別の看護師さんには奥さんのことが心配だと言っていたりして、スタッフそれぞれ言うことが少しずつ違うのですが、全体を見ると彼の本当の姿というものが浮かび上がってくるわけです。
そういう作業を大切にしたいですし、医者に話すことだけがすべてではないと私もいつも意識するようにしています。大事なことですよね。
ハッピー・オブ・ライフ
後閑:話すことって大事ですよね。
緩和ケア医の平方眞先生は、迷ったら「幸せの総量が多いほうを選ぶ」と言われています。
治療だけでなく何に関してもメリットとデメリットがあるけれど、それをしたことで幸せの総量が多いほうを選ぶ。
そういう基準が自分なりにあるといいですよね。