認知症イメージPhoto:PIXTA

 ただ今認知症治療薬の開発は連戦連敗中。

 だから、というわけではないが、今年、WHO(世界保健機関)が初めて認知症および認知機能低下「予防」ガイドライン(GL)を公表した。エビデンス(科学的根拠)のレベルと量に応じた推奨グレードで格付けされている。

 このうち「強く推奨」されるのは、(1)禁煙、(2)運動(65歳以上は週に合計150分以上で中強度の有酸素運動もしくは週に合計75分以上の高強度の運動)、(3)2型糖尿病の発症予防もしくは血糖値の適切なコントロールだ。

 「条件付き推奨」は、(1)健康的な食事(野菜、果物は400グラム/日以上、玄米など茶色い穀物の摂取、糖質・脂質制限など)、(2)節酒や禁酒、(3)中年期の肥満解消、(4)脂質異常症の改善と続く。結局、身体に良い生活は脳にも良いということだろう。

 直接、脳に働きかける方法としては、唯一「脳トレ」が「条件付き推奨」だが「やらないよりまし」といったところ。

 一方、これまで脳に良いとされてきた「ビタミンB/E」や「多価不飽和脂肪酸(EPAやDHA)」「マルチビタミン」の摂取は「全く推奨できない」とばっさり切り捨てられた。

 また、最近注目されていた「社会的な交流」や「抗うつ薬」の認知症予防効果に関しても「十分な証拠がない」としている。

 認知症は、周囲が症状に気付く20年以上前から始まっているといわれる。アルツハイマー型認知症患者の大半は65歳以上だが、遅くとも40代から予防手段を講じる必要があるわけだ。

 前述のごとく認知症関連の創薬は行き詰まっている。1997年に世界初の認知症治療薬(進行抑制薬)「ドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト)」を世に送り出したエーザイも創薬を諦めたわけではないが今年3月、人工知能を用いた認知症の予測・予防を事業化する方針を明らかにした。

 ただ、本当に認知症を予防できるかは不明。「そのうち誰もがなる状態」と理解して健康を心がけ、気が付けば“先送り”できた、くらいがいいのかもしれない。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)