トランプ米大統領Photo:Andrew Harnik/gettyimages

日本は、安全保障面で米国との同盟関係を基礎にすることに変わりはないが、米国一辺倒のスタンスは危険すぎる。経済面では、関税引き上げなど米国の要求に対応しつつ、自力で多国間の連携を推進する必要がある。カギを握るのが、日本の最大の強みである製造分野や技術を生かした展開だ。ある二つの技術を他国に提供することで、日本が主体的に多国間連携を促進できる可能性がある。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

世界に負の影響を振りまくトランプ政権

 トランプ米大統領は世界の多くの国と関税交渉をしているが、その姿勢に一貫性はほとんど見られない。ただ、同氏の思い付きで強気な条件を突きつけ、それを交渉の場で緩和していくに過ぎないようだ。それでは、ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席のような手ごわい交渉相手からは、同氏の姿勢は見透かされてしまうはずだ。

 また、トランプ氏は、行政担当者を明確な理由なく解雇している。それでは、行政組織の能力を生かすことはできないだろう。米国の専門家の中には、「行政能力の低下が重要な課題になる」との見方を強調していた。しかも、同氏の指示は予測が難しいため、閣僚・補佐官など政権スタッフは政策運営に対応しきれていない。

 経済に関しても、トランプ政策による負の影響が顕著に出始めている。5月以降、労働市場の改善ペースは急速に鈍化した一方、トランプ関税で企業のコストは増えている。今後、価格転嫁の動きはさらに顕在化するとみられ、米国の物価上昇の懸念は高まるだろう。

 すでにさまざまな分野でトランプ政策のマイナス面が顕在化している。半導体大手エヌビディアの上納金問題、大学や研究機関への圧力は、米国の国力をそぐ。それは、わが国にとっても無視できない重要なリスクだ。

 日本政府も、トランプリスクを十分に理解する必要がある。そのリスクに対応するため、欧州やASEAN諸国などと多国間の経済・安全保障面での連携を進めることが重要だ。

 トランプ政策にのみ込まれることなく、日本が自立するため絶対不可欠な要素は何か。それは、日本の最大の強みである製造分野や技術を生かした展開だ。ある二つの技術を他国に提供することで、日本が主体的に多国間連携を促進できる可能性がある。