「後継者がいないから」「経営が苦しいから」「将来性がないから」と、
会社をたたむしかないと思っている経営者は少なくありません。

しかし、赤字であっても、売上がほとんどなくても、
買い手が見つかることは多々あります。それも高い価格で。
従業員の雇用の確保など、好条件で。

自分たちが弱点だと思っていることも、買い手にとってさほど重要ではないのです。
こうした事情や弱点を上回る「強み」があれば、必ず買い手が現れます。

『あなたの会社は高く売れます』の著者が、小さな会社ならではの「強み」で事業承継を実現したケースを紹介します。
(編集/和田史子)

あなたの会社は高く売れます
高齢の創業社長の悩みは後継者不在。希望通りの事業承継が実現した理由とは?

創業社長は70歳超え。
たった5人の小さな会社のケース

アドバンストアイ株式会社
代表取締役社長 岡本行生氏
岡本行生(おかもと・ゆきお)
アドバンストアイ株式会社 代表取締役社長
1968年香川県生まれ。東京大学理学部情報科学科卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA(アントレプレナリアル・マネジメント兼ファイナンス専攻)。野村證券株式会社を経て、アドバンストアイ株式会社を設立。「会社の売却は生涯一度きり。中小企業にこそ、大手企業と対等に渡り合えるM&Aアドバイザリーサービスを」との思いから、両手仲介に脇目も振らず、助言一筋20年。たった一人のベンチャー企業から従業員が数百名の中堅企業、ときには数千名の大手企業まで、あらゆる規模のM&Aを手がけてきた。売上ゼロの技術ベンチャーや地方の老舗中堅製造業と世界的企業とのM&A、全国最下位の自動車販売会社が世界第1位に成長するまでの戦略的M&Aなど、到底不可能だと思われる案件も実現させた。公益財団法人日本生産性本部の講師として、中小企業診断士、金融機関やシンクタンクの事業承継担当者に対する中小企業のM&A研修も担う。主な著書に『あなたの会社は高く売れます』『いざとなったら会社は売ろう!』『中小企業のM&A 交渉戦略』(ともにダイヤモンド社)、『事業承継M&A「磨き上げ」のポイント』(共著・経済法令研究会)がある。

「こんな会社、売れるわけないですよね」

 会社をたたむしかないと思っている経営者が抱きがちな12の誤解(第9回連載参照)について、今回は
6 「組織力がない」けれども売れた
 事例をご紹介します。

 関西で、40年にわたって損害保険代理店業を営む会社のケースです。
 70歳を超える創業社長が、前職の部下2人とともに創業しました。創業パートナーの2人の元部下は、少数ながら株主でもあり、営業担当取締役と保険事務管理担当取締役を務めています。

 従業員は営業が1人、保険事務が4人、合計5人の小さな会社です。売上は1億円強、営業利益は1000万円。無借金で、長年にわたって内部留保を積み上げてきた結果、純資産は3億円ほどありました。

 小規模ながら順調に見える会社ですが、創業社長が加齢による体調不良によって数年前から引退を考えていました。
 身内に後継者はなく、創業パートナー2人も60代後半と高齢です。そのパートナーの身内にも後継者は見当たらないことから、会社の売却について相談を受けました。

「小さな会社で、経営者はみな若くない。もし、会社を売却できたとしたら、私を含めた役員は、必要とされる引き継ぎは最善を尽くすつもりです。ただ、みなそう長くはできません。顧客との信頼を第一に仕事に取り組んできましたが、私と役員が会社を離れるとなると、疎遠になる顧客がいるかもしれません。がんばっている現場の社員や顧客を今の状態のまま維持しながら、会社を売れるわけないですよね?

 社長は、そんな強い不安を持っていました。なぜなら、損害保険代理店の事業承継では、保険契約の移転と必要な社員だけを譲り受けるといった、いわゆる事業譲渡や会社分割による譲渡が数多く見受けられていたからです。

 社長は、残り数年の役員の残留と、従業員の雇用維持を強く望んでいました。

 しかし、小規模の会社は社長の属人的な人脈や能力に依存するケースがほとんどです。そのため、組織的な経営体制ができているとは思ってもらえません。社長が引退すると、顧客離れが雪崩を打つように進むことから、社長の希望を満たした売却は容易ではないと腹をくくりました。

 交渉は難航すると思っていましたが、同業他社への売却が成功しました。社長は1年間だけ顧問として残り、引き継ぎを全うする。他の役員は2年間の任期、従業員は現状のままという社長の望む結果となりました。

なぜ、このような円満な事業承継になったのでしょうか。