第3章
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〈いったい、なにが起こってるんだ。政府が関係してるのか〉
携帯電話を耳に当てると同時に、高脇の声が飛び込んできた。
「俺の方が知りたいよ。こっちも大騒ぎだ。今、インターネットで出回ってる地震情報について、お前たちは関係あるのか」
〈僕たちも驚いている。今日の昼の会見は中止になった。政府の要請があったらしい〉
「あの情報は真実なのか」
森嶋の問いかけに、一瞬の沈黙があった。しかし、高脇はすぐに言った。
〈僕にも分からない。しかし、僕らの情報でないことは確かだ〉
「お前らの発表は何だったんだ。現在、出回っているものよりひどいものなのか」
〈似たようなものだが、もっと科学的なものだ。世界最速のスーパーコンピュータの1台で計算したんだ。僕は明日には東京に帰る。もう家族にも研究室にも伝えてある〉
「発表はどうなる」
〈僕がいなくてもどうにでもなるさ。いや、いないほうが都合がいいのかもしれない〉
何となく投げやりな口調の声が返ってきて、電話は切れた。
森嶋は迷ったが理沙の番号を押した。こういうとき、やはり頼りになるのは彼女の顔の広さと情報収集力だ。10回ほど呼び出し音を聞いて切ろうとしたとき、理沙の声がした。
「何でもいいですから、分かってることを教えてくれますか」
〈あなたの方が、すべての有力な情報源に近いのよ〉
「でも、理沙さんの方がこういう事態には慣れてるでしょ〉
〈ネット社会の脆弱性が浮き彫りになった格好ね。私だって驚いてる。こんなに簡単に社会が躍らされるとはね〉
理沙の言い方はすでにデマだと決めつけている。森嶋は、そうは割り切れない何かが引っかかっているのだ。