総理執務室の大型テレビには、ニュース番組が映し出されている。
総理と官房長官、そして2人の秘書は画面に見入っていた。
〈東京にマグニチュード9クラスの巨大地震迫る、の書き込みは、日本語、英語、フランス語、中国語、ロシア語など、10カ国語以上で、世界中のインターネットの掲示板、ソーシャル・ネットワーク上に流れています。その数は今では数十億件にまで拡散しているとも言われています。しかし、日本政府はそのような地震情報の事実はつかんでおらず、国民は冷静な判断をするように求める声明を出しました。しかし、証券取引所が開くと同時にほとんどの日本企業株が売られる状態が続き、円売りも止まらず、一気に5円近く値下がりしました〉
若い女性アナウンサーが神妙な表情で話している。
〈銀行、郵貯にも、開店前から列ができ、預金引き出しの人たちが徐々に増えているという報告が入っています。このままこの状態が続くと、大きな社会問題となるでしょう〉
「バカなアナウンサーだ。すでに重大な社会問題となっている」
総理は吐き捨てるように言った。
しかし、と言って、改まった顔で官房長官を見た。
「デマだということはたしかなんだな」
「調べさせてはいますが、どこの大学も研究所もそのような発表はしていないとのことです」
「海外の大学や研究機関はどうなんだ」
「それは、まだですが──」