(まずい、死ぬかも)

 肺とほっぺたに空気をいっぱいに入れたまま上を見ると、海面まで5メートルはありそうで、とても遠く思えた。透き通った水越しに太陽が輝いている。

(父さんがよく言ってた通りだな。溺れる人間の傍にいるのはホントに危ないよ)

 弟をしがみつかせたまま、海底を浜に向かって必死に進んだ。突然水深が浅くなり、次に体が持ち上がり、浜辺に打ち上げられた。

(助かった)

 2人とも、海水を鼻や口からゲホゲホ吐き出す。

「兄ちゃん、怖かった」

「バカ、しがみつくなよ。死ぬかと思ったよ」

 トモキさんは現在50歳。40年以上も前の溺れかけた体験を、今でもはっきりと覚えている。

「昭和の子どもって、相当危ない遊び方をしていたと思いますね。自分の子どもには絶対、真似(まね)してほしくないです。僕らはみんなサバイバーなんじゃないかな。

 まあ、僕の場合は、昭和一桁生まれのオヤジの教えが随所で役に立ちました。海であれだけ遊んだのに生きているのはオヤジのお陰です」

溺れている人を
すぐに助けに行ってはいけない

 トモキさんの亡父は宮城県気仙沼市生まれ。2歳上の兄とともに川と海を遊び場にして育ち、その間に得た教訓を、ことあるごとに子どもたちに伝えていたという。時代が変わっても、夏になるたび、川や海では痛ましい事故が起きるが、トモキさんは、「オヤジの教え」が広まれば、助かる生命は増えるのではないかと感じている。

 この夏の海の安全を祈願して、そのいくつかを紹介する。