「無料」が人間の心に
もたらすインパクトとは

 何よりも「無料!」という言葉の持つインパクトは大きい。行動経済学者として有名な米デューク大学のダン・アリエリー教授は、その著書の中で「ゼロコストのコスト」と表現しているが、「値段ゼロというのは単なる価格ではなく、無料は感情のホットボタン、つまり引き金であり、不合理な興奮の源である」と書いている。つまり、無料と謳った途端に多くの人が群がる。それが抽選だったとしても、そのインパクトの大きさに惹かれる人が多いということを示している。

 それらの人たちの心理はおそらくこのようなものだろう。「50人に1人というのはなかなか当たらないだろうけど、絶対当たらないとは言えない。現にロビーのあちこちで“当たった!”という声が聞こえているじゃないか!」。

 このように、少なくとも宝くじよりははるかに高い確率で当たる、という思いが心を支配するのだ。外食産業でも、こういうキャンペーンが行われたと聞いたことがあるが、やはり金額の大きい航空券というのはインパクトが大きいのは言うまでもない。しかも一番重要なことは、これをネットでやるのではなく、大勢の人が集まる空港という場所でやったということだ。これはちょっとしたイベントであり、利用可能性ヒューリスティックを更に高めるための工夫が上手になされていたということなのだろう。

 全日空のキャンペーンは、“無料”という心の罠に加えて、絶妙な当選確率の設定による“ヒューリスティック”を引き起こす作用によって、成功したマーケティングの例と言ってもいいだろう。

 こういうキャンペーンの場合、利用者、消費者の立場からすれば不利益を被るわけでもなく、何も損はないわけなので、あまり細かく考える必要はない。ところが場合によっては割高な商品やサービスを、こうした巧みなマーケティングによって無意識のうちに購入させられるケースもあるだろうから、注意が必要だろう。大切なことは、見た目や無料の魔力に惑わされず、本当に必要かどうかを判断して購入することなのだ。

(経済コラムニスト 大江英樹)