こうして時間をかけて少しずつ工場が移転していくことは、リスクシナリオを軽減させると筆者は考えている。何らかの拍子に、米中の衝突が激化し、「中国にあるすべての外国企業が工場を閉じる」といった事態に陥ると、移転先の工場が建つまでの間、世界的に生産が止まってしまう品目が続出しかねない。そうしたリスクが減りつつあるのである。

「米国と付き合うなら中国と付き合うな」の時代へ

 今後、米中関係がかつての米ソ関係のような冷戦に近づいていくのだとすると、米中関係の貿易も投資も行われず、第三国も「米国と付き合うか中国と付き合うか、どちらかを選べ」と言われるようになるかもしれない。

 もちろん、現在すでに米中間では極めて巨額の取引が行われているわけであるから、これがゼロになると考えるのは現実的でないが、そうした方向に向かっていくことは、十分に予想できる。

 それを予想した各国企業が、先回りして生産拠点等を移すようになると、関税逃れとは比較にならない規模の工場移転が起きる可能性がある。そしてそれは、「実際に米中冷戦が激化するか否か」ではなく、「人々が米中冷戦激化を予想するか否か」に影響される。

 そうなると、「景気は気から」どころではなく、「米中分断は気から」になるのかもしれない。

 仮に米中分断が進んだとしても、その事自体が日本の景気に与える影響は限定的である可能性が高い。中国への輸出が減った分だけベトナム等への輸出が増えるからだ。

 ただ、この場合も「何が起きるかわからないから、とりあえず設備投資は1年間待って様子を見よう」と世界中の企業が考えると、世界不況がくるかもしれない。予断を持たずに事態の推移を見極めたい。

 追加関税の報道を受けて、株式市場は動揺して下落した。こうした下落が続くと、株価の下落が人々の気分を暗くさせ、それが実際の経済に悪影響を及ぼすという可能性もあろう。今後の行方が注目される。