そこで、世界から飢餓をなくすための活動を展開する「ハンガーゼロ(日本国際飢餓対策機構)」というNGOと協力し、以下の仕組みを考案した。
ステップ1:家庭や学校、自治体などが購入した備蓄用のパンの缶詰は、本来3年が賞味期限だが、2年を経過する1~2ヵ月前に回収と再購入を持ちかける。
ステップ2:再購入を約束してくれた顧客には、回収商品の「下取り」分を、新品の購入代金からディスカウント(注:現在はディスカウントは行われていない)。回収費用はアキモトが負担。
ステップ3:回収した缶詰は「ハンガーゼロ」をはじめとするNGOに送る。その後の費用はNGOが負担する。
ステップ4:缶詰はNGOを通じて、国内および海外の被災地や飢餓地域に救援物資として届けられる。
こうした仕組みならば、アキモトのような小規模の事業者でも、最小限のコスト負担で持続的に運営できる。
「救缶鳥プロジェクト」と名づけられた、このリユースシステムの趣旨は、多くの顧客の賛同を得て、2009年から始動することになる。
救缶鳥プロジェクトにより、これまでに国内14都道府県に15万5000缶、バングラデシュ、イラン、ジンバブエなど世界16ヵ国に27万缶を提供、支援物資として喜ばれているそうだ。
社会貢献だけでなく
ビジネスとしてもきちんと成立させる
本書のエピローグには「アキモトの仕事を見ていると、社会は自分の力では変えられないとあきらめるのではなく、社会は自分の足元から変えられるのだという希望が見えてくる。あきらめなければ、思いは叶う」とある。
これが単なる精神論に聞こえないのは、秋元氏が「自分たちは堂々と儲けなければならない」と言い、自分の「足元」であるビジネスをしっかりと成立させることにも心を配っているからだろう。
秋元氏は「堂々と儲ける」と言いながらも、実際は苦しい中でギリギリのやりくりをしながら食糧支援という社会貢献を自社のビジネスに融合し、継続してきた。
また、経営において、顧客、自社、世間の「三方よし」をめざすことをお題目のように唱える企業もある。しかし、実際にこの「三方」の利益をバランスよく確保するのは、そう簡単なことではない。
その点、秋元氏が手がける救缶鳥プロジェクトは、「パンの缶詰を購入した顧客」、「自社のビジネス」、そして「世界中の被災者や飢餓に苦しむ人々」と、見事な「三方よし」を実現している。
長野県に住む私は、近くの浅間山が噴火したこともあり、さっそくパンの缶詰を購入して備蓄することにした。これが自分自身の、もしくは、どこか遠く離れた困っている人々の助けになるかと思うと、なんとなくうれしい。
(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)