2001年に刊行され、長年愛されてきた作家・いしいしんじの小説『トリツカレ男』がこの度、ミュージカルアニメーションとして映画に。何かに夢中になると、ほかのことが全く目に入らなくなり、街のみんなから“トリツカレ男”と呼ばれているジュゼッペと、彼が一目惚れして夢中になる女の子ペチカとの心温まるラブストーリー。ペチカ役に選ばれた上白石萌歌は映画『パリピ孔明 THE MOVIE』での歌唱も話題になったばかり。透明感ある歌声に魅了される。(撮影:千倉志野 取材・文:高山亜紀)

「ダイヤモンド・ザイ」2025年12月号の「表紙の人/Precious Talk Lounge!」を基に再編集。データはすべて雑誌掲載時のもの。

歌の収録が役作りに繋がった!
序盤は引き算の演技を意識

「ペチカはとても寒い国からやってきた女の子で、病気のおかあさんと借金という問題を抱えています。私はお芝居の際に気持ちを発露しすぎるところがあるので、ペチカとして抑え目な表現を心がけました。どの段階でジュゼッペに心を開くのか、どういう言葉がきっかけで、彼に自分の弱さを見せられると思うのか。そんなことを想像しながら、演じました」

上白石萌歌上白石萌歌●鹿児島県出身。2011年、「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ。2012年、ドラマ「分身」で俳優デビュー。2019年、映画『羊と鋼の森』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。2017年からadieu名義で歌手としても活動している。
ヘアメイク:坂本怜加(Allure) スタイリスト:道端亜未 衣装協力:AFFECT

 実は声を録る前に行われたのが歌の収録。ジュゼッペとペチカは劇中、歌で見事な掛け合いを見せるが、別々に吹き込んだものだという。

「声のトーンやどんな風に喋るのかを探る前に歌うのは難しかったです。けれども、役のことをより理解する上では、歌を先に録ったことが良かったのかもしれないと感じています。そのとき歌ったものが、劇中のクライマックスで流れることは分かっていたので、『ここを頂点にするなら、そこまでをどのように辿っていけばよいのか』と逆算ができるようになったからです」

 抜群の歌のうまさで知られる彼女。2017年に歌手・adieuとしてデビューし、2024年は音楽フェスに初出演。映画にもなった「パリピ孔明」シリーズではEIKOとして、魅惑的な歌声を披露している。

「私は歌うとき、メロディーの中に主人公を見出して、どういう性格でどういう人を好きになるんだろうと妄想して、表現するようにしています。そういう意味では今回、ペチカというキャラクターが既に存在していたので、普段より想像しやすかったといえます。明確に辿り着きたい場所が見えていて、準備できる材料がたくさんあるような感覚でした」