成功は実は確率論
――成功者のキャリアは8割が偶然

 何が自分のコナトゥスを高めるのかは、結局のところは試してみないとわからない、というスピノザの結論はまた、多くのキャリア論に関する研究からも裏付けられています。代表例はスタンフォード大学のジョン・クランボルツによる研究でしょう。

 結果的に成功した人は一体どのようにキャリア戦略を考え、どのようにそれを実行しているのか?

 この論点について初めて本格的な研究を行ったスタンフォード大学の教育学・心理学の教授であるジョン・クランボルツは、米国のビジネスマン数百人を対象に調査を行い、結果的に成功した人たちのキャリア形成のきっかけは、80%が「偶然」であるということを明らかにしました。

 彼らの80%がキャリアプランを持っていなかった、というわけではありません。ただ、当初のキャリアプラン通りにはいかないさまざまな偶然が重なり、結果的には世間から「成功者」とみなされる位置にたどり着いたということです。

 クランボルツは、この調査結果をもとに、キャリアは偶発的に生成される以上、中長期的なゴールを設定して頑張るのはむしろ危険であり、努力はむしろ「いい偶然」を招き寄せるための計画と習慣にこそ向けられるべきだと主張し、それらの論考を「計画された偶発性=プランド・ハップンスタンス・セオリー」という理論にまとめました。

 クランボルツによれば、我々のキャリアは用意周到に計画できるものではなく、予期できない偶発的な出来事によって決定されます。

 それでは、キャリア形成につながるような「いい偶然」を引き起こすためには、どのような要件が求められるのでしょうか? まずハップンスタンス・セオリーの提唱者であるクランボルツ自身が指摘したポイントを挙げてみましょう。

【好奇心】自分の専門分野だけでなく、いろいろな分野に視野を広げ、関心を持つことでキャリアの機会が増える。

【粘り強さ】最初はうまくいかなくても粘り強く続けることで、偶然の出来事、出会いが起こり、新たな展開の可能性が増える。

【柔軟性】状況は常に変化する。一度決めたことでも状況に応じて柔軟に対応することでチャンスをつかむことができる。

【楽観性】意に沿わない異動や逆境なども、自分が成長する機会になるかもしれないとポジティブに捉えることでキャリアを広げられる。

【リスクテイク】未知なことへのチャレンジには、失敗やうまくいかないことが起きるのは当たり前。積極的にリスクを取ることでチャンスを得られる。

 このクランボルツの指摘を先ほどのスピノザの指摘に重ね合わせてみれば、私たちにとって重要なのは、自分のエイドスに従って選り好みするようなことはせず、どのような対象にも自分のコナトゥスを高める機会があるかもしれないと考え、オープンに機会を受容していくことなのだということがわかります。

 これこそが、特に変化が激しく、職業リストそのものがどんどん書き換わっていくような時代にあって求められるニュータイプの思考様式です。

 一方で、オールドタイプは計画にこだわります。長期の計画を立て、その計画を頑なに実行しようとし、思いがけずやってきた機会に対して自らを閉ざし続けるのがオールドタイプの行動様式と言えます。

 このような態度で生きていれば、自分のコナトゥスを高める事物を発見する機会は当然ながら減ることになり、スピノザの定義する「人生を楽しむ賢人」への道は遠のくことになります。