「綿密な計画」はむしろ成功確率が下がる

 クランボルツの研究結果は「計画を立て、計画の達成にこだわる」という、一般的にはポジティブに評価される行動様式が、実は成功を遠ざける要因になっていることを示唆しています。

 特に、現在のような予測の難しい時代にあって、これまでポジティブに評価されてきた「綿密に計画を立て、計画の達成にこだわる」というモードは、もはやオールドタイプのそれということになります。

 一方で、ニュータイプは「とりあえず試してみて、結果をみて修正する」というダイナミックなアプローチを取ります。

 同様のことがプロジェクトの成否についても指摘できそうです。1990年代の初頭、スタンフォード大学のキャスリーン・M・アイゼンハートとベナム・N・タブリージは、年間売上5000万ドルを超えるアメリカ、欧州、アジアのコンピューターメーカー36社が手がけた72の製品開発プロジェクトに関する調査を行い、最もイノベーティブな成果を達成したチームは、計画段階にかける時間が少なく、実施段階における時間が多いチームであることを明らかにしました(*2)。

 つまり、計画を細部に至るまで綿密に作り上げる前に、まずは即興的にプロジェクトを始めるチームほど、大きな成果を生み出していたということです。

 一方で、一般的なイメージとは裏腹に、事前の計画を綿密に作ろうとして時間をかけたチームほど、プロジェクトの進展は遅く、得られた成果も小さかったのです。

 即興型のチームに「計画がなかった」わけではありません。言ってみれば即興型のチームは、計画を実行しながら計画を作っていたのです。

 私たちは一般に「計画の策定」と「計画の実行」を2つの種類の異なるタスクと考え、これをレゴブロックのようにシーケンシャルにつなげるイメージで捉えます。

 しかし、即興型のチームは「計画の策定」と「計画の実行」が渾然一体となっており、実行をしながら、その都度立ち現れてくる問題や見えてきた市場の好機に適応するようにして、計画を仕立て直していました。

 言い換えれば、プロジェクトの進行過程そのものが、計画立案のプロセスになっていたということです。だからこそ、即興チームの方が市場での成功確率が高かったのです。

(注)
*2 K. M. Eisenhardt and B. N. Tabrizi, "Accelerating Adaptive Processes: Product Innovation in the Global Computer Industry," Administrative Science Quarterly 40(1995): 84-110.