【ホーチミン(ベトナム)】米中の貿易摩擦が深まるに従い、ベトナムには輝く時が訪れると思われた。しかし、次第に明らかになってきたのは、同国をはじめ製造業の拠点化を目指す各国が世界の工場として中国に取って代わる準備を整えるのは、もし可能だとしても、何年も先になるということだ。
中国がスマートフォンや掃除機、ダイニングテーブルなどの一大生産拠点になれたのは、それぞれに専門化したサプライチェーンの存在があったからだ。しかし、ベトナムのサプライチェーンの充実度は中国にはほど遠い。米国市場に適合する安全基準認定や、大型投資を必要とする機械設備が整った施設を見つけることは難しい。
米国の対中関税による影響を避けようと世界中の製造業がベトナムへの移転を急ぐ中、人口が中国の10分の1以下のベトナムは、既に労働力不足にも直面している。
大型ポンプの製造など手掛けるオムニデックス・グループの幹部は「中国は15年先を行っており、どんなものでも、必要と思えば誰かがそれを作っている」と語る。
同社は製造部門の一部をベトナムに移したが、鉱業分野で利用されるポンプの80種類以上の部品のうち、ベトナム工場でこれまでに製造を開始できたのはわずか20種類にとどまる。金型を最初から作らなければならないからだ。
「拠点をベトナムに移すだけでは望むものは手に入らない」と同幹部は語る。
企業幹部らは、世界経済を支配する2大国である米中の争い長期化を覚悟していると話す。中国からの全面撤退を計画している企業は少ないが、中国での生産に大きく依存している企業は、生産拠点の早急な多様化を目指している。