ビジネスの問題の多くは、コミュニケーションの問題
帰り道、早苗は川上と隅田川の河川敷を歩いていた。早苗は、父が急死して自分が社長に就任したことから、今までに起こったすべての経緯を川上に話した。
「そうかぁ。大変だったんだなぁ、さなえ……」
「相談できる相手がいなくて……」
「これからは俺が相談に乗るよ。だから一人で悩むな」
「――ありがとうございます」
早苗は川上の優しさに触れ、心があたたかくなった。2人はしばらく言葉を交わさず、夕暮れの河川敷を歩いた。
「さなえは『アドラー心理学』って聞いたことある?」
川上が早苗のほうに体を向けて質問をした。
「詳しくは知りませんが」
早苗は、本屋でアドラーの本が平積みされている光景を思い出していた。
「アドラー心理学では『人間の悩みはすべて対人関係の悩み』と主張しているんだ」
「悩みのすべては対人関係……」
「まぁ、詳しいことは本を読んでほしいんだけど、結局、ビジネスの悩みも対人関係、つまり、『コミュニケーションの問題』にあると俺は考えているんだ」
「ビジネスの問題も……、コミュニケーションの問題なんですか?」
早苗は話の方向性が見えず、川上の言葉を待った。