ビジネスに必要な共通言語なんて、あるんですか?

 「さなえの会社では、コミュニケーションがうまくいっていると思う?」
 早苗は製販会議で製造と営業が言い争っている様子を思い出し、ため息をついた。

 「いえ、残念ながらあまり。いつも険悪です」

 「なぜ?」

 「なぜって言われても……」

 「じゃあ、質問を変えるね。コミュニケーションに必要なツールは何かな?」
 早苗は今までコミュニケーションについて深く考えたことがなく困惑した。川上はそんな困っている様子の早苗を微笑みながら見つめているだけだった。

 「そうですね。笑顔ですか?」

 「なるほど! 笑顔は大事だね。だけどもっとシンプルに考えてみて。今、俺とさなえはコミュニケーションをとっているよね? 何を使っているんだろう?」

 「あ、そっか。言葉ですね」

 「そう、言葉! 言葉がなければ、コミュニケーションは成り立たない。日本語という2人とも理解できる言語でコミュニケーションをとっているんだ」

 「先輩、私の会社でもちゃんと日本語でコミュニケーションしていますよ」

 「たしかに日本語でコミュニケーションはしている。だけど、ビジネスの共通言語は使われていないんじゃないかな? だから意思疎通がうまくいってない」

 「ビジネスの共通言語? そんなものがあるんですか?」

 「もちろん。ただ、それを知らないビジネスマンが多すぎるんだよ。例えば、さなえがアメリカに引っ越したとしよう。英語が話せなかったらどうする?」

 「まぁ、ボディランゲージでなんとか頑張りますが、生活していくのは大変そうですね」
 早苗はアンダーソンに英語で自己紹介した時のことを思い出しながら答えた。

 「大変だよね。でもそれと同じことが会社の中で起きている。社員がビジネスの共通言語を持っていないから、お互いの専門用語で話す。製造は製造の言葉、営業は営業の言葉っていう具合にね。言葉が噛み合っていないんだ」

 「専門用語……。たしかに、会議に出ていても分からない言葉が出てきます。でもその場では意味を聞きづらくて分からないまま、ということがよくありますね」

 「だから、みんなが理解できるビジネスの共通言語が必要だ。なんだと思う?」

 「うーん、なんだろう。ヒントください!」

 「ヒントは、俺の仕事と関係している」
 川上は大学3年生の時に公認会計士の試験に合格し、大手監査法人に勤務。2年前に経営コンサルタントとして独立していた。

 「会計?」

 「そう! ビジネスの共通言語は会計なんだよ! でも、今日は時間も時間だから、この話の続きは明日にしようか?」

 つづく

相馬裕晃(そうま・ひろあき)
監査法人アヴァンティア パートナー、公認会計士

1979年千葉県船橋市生まれ。
2004年に公認会計士試験合格後、㈱東京リーガルマインド(LEC)、太陽ASG 監査法人(現太陽有限責任監査法人)を経て、2008 年に監査法人アヴァンティア設立時に入所。2016年にパートナーに就任し、現在に至る。
会計監査に加えて、経営体験型のセミナー(マネジメントゲーム、TOC)やファシリテーション型コンサルティングなど、会計+αのユニークなサービスを企画・立案し、顧客企業の経営改善やイノベーション支援に携わっている。年商500億円の製造業の営業キャッシュ・フローを1年間で50億円改善させるなど、社員のやる気を引き出して、成果(儲け)を出すことを得意としている。
著書に『事業性評価実践講座ーー銀行員のためのMQ会計×TOC』(中央経済社)がある。MQ会計を日本中に広めてビジネスの共通言語にする「会計維新」を使命として、公認会計士の仲間と「会援隊」を立ち上げ活動中。